「第5波」対策に関する教育委員会への申し入れ

第5波の最中、藤沢市でも100名前後の陽性患者数の発表が続いています。2021年8月23日時点で1週間の人口10万人あたり感染者数は174.1人となり、神奈川県のステージ4基準(藤沢市の人口換算で15.6人)の11倍に上っています。


「第5波」の到来

市内の状況


藤沢市内の実効再生産数(東洋経済方式)は、一旦少し下がったものの、1.33と再上昇しており、今がピークかどうかも分からない状況です。

GWの第4波が、「さざ波」に見えるほどの大きな波を迎えています。


出典:藤沢市のデータをもとに作成

1週間の平均検査陽性率も急上昇しており、お盆前の2021年8月13日時点で23.7%超と検査が追いついていない様子です。(神奈川県は2021年8月19日時点で35.5%に上っています)

市内では自宅療養者が2021年8月23日時点で577人と急増しており、病院と保育園でのクラスターに加え、ショッピングモールやスーパーなどの生活圏でも日々感染者の発表が相次いでいます。子どもの習い事でも職員の感染や濃厚接触の報告が続くなど、感染リスクが身近に迫っていることを実感します。

全国の子どもの状況


全国に目を向けると、夏休み中でも、日々子どもたちが新型コロナに感染しています。

どのくらいの子どもが感染しているのか厚労省のサイトに公開されている最新データを確認してみます。(カッコ内は全体に占める割合)

2021年8月17日時点の「性別・年代別陽性者数(累積)」で、20歳未満の陽性者数は149,098人に上り、全体に占める割合は12.9%でした。

  • 全体1,156,460人
  • 10歳未満47,007人(4.1%)
  • 10代102,091人(8.8%)

2020年7月27日時点は同11.4%でしたので、夏休み中ですが増えています(注1)。
次に、2021年8月19日時点の「集団感染等発生状況」を見ると、同年7月26日からの3週間で発生したクラスターの内訳は以下の通りでした。

  • 全体829件
  • 医療機関25件(3%)
  • 福祉施設198件(23.9%)
  • 飲食店127件(15.3%)
  • 運動施設24件(2.9%)
  • 学校・教育施設140件(16.9%)
  • 企業270件(32.6%)
  • その他45件(5.4%)



出典:厚労省

2021年7月29日時点の学校・教育施設の割合は23.1%でしたので、割合は減っていますが、夏休みにもかかわらず1カ月弱で件数は同74件からほぼ倍増です。福祉施設のうちもっとも多い児童福祉施設125件(15.1%)を付け替えると、飲食店を大きく上回り、企業に迫る265件(32%)ものクラスターが「子ども関連施設」で起きていることになります。

2021年8月18日の厚労省のアドバイザリーボード資料では、東京都の年代別新規陽性者数の傾向として、「10歳代以下での感染拡大がこれまでの流行よりも顕著で40~50歳代と同レベル、保育園等でのクラスター発生の影響と考えられる」と指摘しています。また、別の資料では、「全国で流行する新型コロナウイルスの9割以上がデルタ株によって置き換わったと推定」したうえで、全国の年齢別感染リスクの変化について、2021年7月10日以降の一か月を同年5月に比べて「小中学生の世代(6-15歳)の上昇の程度」がやや大きいとしています。

教育委員会への申し入れ

経緯


当初はここまで子どもをめぐる状況が悪化するとは予想していませんでしたが、先日藤沢市教育委員会に、デルタ株対策に関する申し入れを行いました。

きっかけは、2021年1月に、SNSで繋がった全国の有志が各市町村の首長と教育長宛に選択登校制(登校選択制)に関する要望書を送付する活動に賛同し、居住地である藤沢市を担当したことでした。

藤沢市議会の清水竜太郎議員の以下のブログを拝見し、選択登校制が、パンデミックや他の災害時など、「いざというときの備え」として有効な取り組みと考えました(ところで、この時点で私は選択登校制のことを知りませんでしたので、清水議員がブログで紹介している「『選択登校制』の導入を求める声」をあげたのは別の方です)。


要望書を送付する活動は、匿名で集った全国の保護者がSNSで分担をし、書類を郵送するという手軽なもので、その後、Facebookを通じて回答受領報告をいただき、一区切りとなりました。

投函の様子

藤沢市からの回答:

2021年3月時点の藤沢市教育委員会からの回答は、市立学校向けに感染対策ガイドラインを作成していることに加え、登校を控える生徒には個別支援を行っていることに触れたうえで、「制度としての『登校選択制』の導入につきましては、今後、国や県の動向を踏まえつつ、藤沢市の児童生徒の現状、保護者の意見等を注視しながら検討してまいります」というものでした。

高まる危機感


その後、国内における変異株の広がり、その時点であまり進んでいなかったワクチン接種、GWに向けた第4波の可能性、そして子どもの通う施設職員での感染報告などを受け、危機感が募っていきました。

第4波は幸い居住地域では比較的影響が少なかったこともあり、1学期は無事乗り切ることができそうでしたが、GW明けに、2学期以降について、第5波(と恐らく第6波)は残念ながら避けられないとの見通しを立て、その理由として以下3点を考えました。

  1. デルタ株など感染力の強い変異株のまん延
  2. 連休、夏休み、オリパラ、お盆などイベントが続くことによる行動変容への影響
  3. 2学期までには間に合わない若年層へのワクチン接種

なかでも、従来株に対する感染力が2倍程度で重症化しやすいとされるデルタ株は、これまでの変異株以上に子どもに影響を与え、より重症化する可能性が高いという報告もある深刻なリスクです(注2)。

2学期以降に向けて、面識のある国会議員や報道機関に勤める知人に問題意識を共有し、国に保護者の声を届けるとともに、自治体にも危機感を共有したいと考えるようになりました。

そこで、医療や公衆衛生の素人ながら、ブログに新型コロナと子どものリスクに関する様々なニュースやエビデンスを踏まえた私見をまとめるに至りました。

リスク管理のフレームワークと高性能マスクの重要性:
子どもは感染・拡大しづらいという「通説」の検証:

これらブログを知人に共有し、Twitterを通じて情報発信しつつ、2021年6月中旬に清水議員と面談し、問題意識を共有しました。清水議員は、市議会の会期中にも関わらず、一保護者の話を親身に聞いた上で、以下の助言をくださいました。

  • 議会質問を通じての確認は間に合わず2021年9月の議会となる
  • 陳情・請願にはそれなりの準備が必要であり、また個人名が開示される
  • 市への申し入れであれば個人情報を公開せずに早期に声を届けることができる

「申し入れ」という響きは物々しく、政治的な力を持った団体や議員でないと難しいという先入観があったのですが、大変な手続きは不要で、一枚紙に要望書をまとめて渡せばよいということでした。

2021年1月に郵送した要望書と違い、議員同席のもとで、教育委員会の方に直接お話を聞いていただける点が心強く、個人情報を厳守いただける点もありがたく感じました。(学校や担任の先生に迷惑がかかってはいけないと考え、匿名で活動をしているためです)

その後、要望書を準備した上で、2021年7月中旬に清水議員に仲介をお願いし、第5波只中の同年8月17日に面談を設定いただきました。

教育委員会との面談


デルタ株による災害ともいうべき感染爆発が続くなか、市役所に伺い、藤沢市教育委員会の松原部長と伊藤参事にご対応いただきました。当日は、状況が状況だけに会議室の窓を全開にしていただき、換気の利いた空間で、保護者としての懸念と提案をお伝えしました。

要望書を用意するにあたっては、市内の賛同者に加え、市外・国外の様々な分野にお詳しい方、そして全国の自主休校中の家庭の保護者など、多くの方からご支援・ご協力をいただきました。感謝申し上げます。

近隣自治体の保護者の方から内容を共有してほしいとの声がありましたので、末尾に全文を掲載しました。

当日は、なかでも以下の対策の重要性を強調しました。

  • 空気を介した感染リスクの注意喚起と換気の更なる徹底
  • 不織布マスク相当の高性能マスクの着用推奨
  • CO2モニター、高性能空気清浄機(HEPA/MERV13等)の設置
  • 感染者発生時の濃厚接触者に限らない一斉検査の実施
  • オンライン授業と選択登校制/分散登校の導入

いわゆる「空気感染」対策を含め、これらの提案の骨子は、以下のブログの内容をベースにしています。

学校における感染リスク回避・軽減策:
感染爆発期の緊急対策として、要望書を準備していた段階では、あまり時間を割く想定ではなかった「オンライン授業と選択登校制/分散登校の導入」でしたが、残念ながら感染爆発の真っただ中で学校が始まる公算が強くなってきました。そのため、別添資料に改めて詳細な状況認識と提言をまとめ、重要性を訴えました(注3)。

なお、検査については、一斉検査以外に、社会的(定期)検査についても触れていますが、私は専門家ではなく、英国では弊害も指摘されていることから、あくまで感染急増/爆発期における追加的対策の候補として挙げるに留めました。藤沢市は保健所政令市であることもあり、保健所と打ち合わせる必要のある事項については、別途相談の上、回答を頂けることになりました。

当日は藤沢市の取り組みとして、GIGA スクール構想に伴う1人1台の学習用端末を整備済みであること、大学と協力して市立の小・中学校や養護学校の教職員にワクチン接種を進めたこともご説明いただきました。

要望することは簡単ですが、慎重派と緩和派の多様な保護者の声を受け止め、現場の先生のご負担も考慮しながら、何より子どものことを第一に考えて、現実的な対策に落とし込んでいる教育委員会の姿勢に敬意を払います。

当日の様子は、清水議員のブログでもご紹介いただきました。

(臨時休校か分散登校を)
もう一つの問題が、小中学校の新学期です。文部科学省は、一律の休校は求めず、各自治体に委ねる考えを示しています。子どもの感染が増えていて、保育所の休園が相次いでいる現状を考えれば、何も手を打たず、学校を再開すればどういう事態になるかは目に見えています。

わたしは臨時休校した方がよいと考えますが、コロナ対策を施しながら、学校での学びを保障したい教育委員会の立場を考えれば、せめて分散登校など人数を制限する必要があると思います。

先日は、学校でのコロナ対策の強化を訴える保護者の方が教育委員会に申し入れを行ないました。基本的な対策として、▲換気の徹底、▲教職員への不織布マスクの着用推奨、▲二酸化炭素の濃度を測る機器や空気清浄機の設置、▲希望する教職員への優先的なワクチン接種などを求めています。その上で感染爆発期には、オンライン授業を用いた選択登校制や、分散登校の導入を要望しています。

内容をみると極めて現実的だと思いますし、いかにハイテク機器の活用を軽んじてきたのか痛感します。オンライン授業については、教育委員会も推進していますが、教える側の経験不足が課題となっています。いまは緊急時ですので、オンライン授業にも長けた民間の力も活用すべきだと思います。

2学期前の貴重な時間を割いていただき、真摯に保護者の声に耳を傾けていただいた松原部長と伊藤参事、そして仲介および同席いただいた清水議員に深謝申し上げます。

声をあげる識者


申し入れと前後して、2学期開始が迫っている危機感からか、足元の感染状況や現場の症例・事例を踏まえつつ、休み明けの学校のリスクについて、アカデミア、医療、政治、行政、報道、ビジネスなど各分野の専門家・識者からの声が目立つようになりました。

代表的なものを、小中学校に関する発言を中心に時系列で紹介します。

以下の方々は必ずしも学校保健、教育、公衆衛生を専門としているわけではありません。しかし、現下の状況を各自の専門的知見・経験をもとに客観的に評価された発言であり、政府や自治体は重く受け止めるべきです。

慶應義塾大学環境情報学部准教授 大木氏

亀田総合病院集中治療科部長 林氏

総合内科専門医 長嶋氏

大阪府済生会中津病院 安井氏
デルタ株に感染した方を診ると、発症から7日経っても、ウイルス量が減っていない印象です。ウイルス量が多いということは、周りへの感染性が高いということです。そして、感染者がウイルスを排出する期間が長いということは、症状が現れる前に多くの人にうつしている可能性が考えられます。

これだけ感染力が強いデルタ株が全国に拡がると、止めることは容易ではありません。これまで感染者が多かった大人のみならず、10代以下のお子さんの世代でも感染が拡がる恐れがあります。特に、これから夏休みが明け、新学期が始まるお子さんの学校で集団感染が発生し、お子さんから家庭内に持ち込まれるケースも増えると危惧しています。

神奈川県医療危機対策統括官 厚労省参与 畑中氏

国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授 和田氏
感染拡大する中で、間もなく新学期が始まるに当たって、子どもたちへの影響を心配しています。今までとは少し違う危機感を持たないといけません。
(中略)
千葉県船橋市の学習塾で小中学生のクラスターが発生したように、大人の中で広がりが出てくると、小中学生にも広がる可能性があります。
(中略)
ウレタンマスクのデザインや色がおしゃれで気に入っている学生もいると思いますが性能は落ちますので、不織布のマスクの着用を徹底してほしい。
(中略)
デルタ株であっても子供の重症化率は低く抑えられています。それでも一定数の感染者が出たら、重症者も出る可能性があるということです。
(中略)
小中学生は高校生よりは守られている印象はあります。それでも完全に守られているわけではないのは、塾での集団感染が出てきていることからも警戒しなければいけません。

神戸大学病院感染症内科診療科長 岩田氏

日本大学教授 内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員 末冨氏
児童生徒1人1台のタブレットはすべての自治体に配備されており、できないという学校・自治体の言い訳は成立しません。

また予防接種を受けてもデルタ株感染は防げないことがわかっている今、自分や家族に基礎疾患等があったり、エッセンシャルワーカーの家族(や家族の関わる患者さん)がいるご家庭では登校自体をためらうケースも少なくありません。

命を守るために家庭での学習を希望する児童生徒に対応することも新型コロナウイルス収束までの「新しい日常」にしていくべきではないでしょうか。

すでに福岡市熊本市ではオンライン授業への対応もされています。福岡市はオンライン授業を出席認定する方針も明確にしています。

ただしオンライン授業と対面授業のハイブリッド配信は教職員の負担が大きくなります。教員やサポートスタッフの増員も財源措置が必要でしょう。

あるいは全国の自治体と文科省が連携して、教科・単元別のオンラインコンテンツを配信し、拠点校などで在宅学習の子どもたちのフォローアップや評価をする方式など、様々な工夫が可能であるはずです。

国立国際医療研究センター 大曲氏
医療が深刻な機能不全を起こしているとして「救える命も救えなくなる」と強調。感染の中心は依然20~30代だが、10代以下の子どもや65歳以上の高齢者でも感染が急増しており、懸念材料に挙げた。

枚方市長 伏見氏

長崎大学病院小児科教授 森内氏
現在のウイルスは子どもを含め全ての年代層で感染しやすい。大きく流行している地域では、時期を限って休校などを実施し、大人も子も家にいるという態勢が望ましい

株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室氏

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児感染症医 張氏
県内陽性者に占める15歳以下の割合が、デルタ株拡大の第5波(7月16日から8月7日)で15・6%だったと発表。第4波11・5%、3波6・6%、2波6・5%、1波0・7%に比べ高かった。第5波の感染経路は家庭内が60・4%と高いが、学校など15・6%、不明も24・0%あり「デルタ株以降、子ども同士でうつす、子どもが家庭に持ち込む例が実際に出ている」と述べた。

武田内科小児科クリニック副院長 武田氏
「(子どもの感染は?)ここ1カ月くらいで増えてきています。デルタ株の感染力が強くなっているということと、お子さまもかかりやすくなってきている」

感染力が強いデルタ株が、9割以上を占めるようになって急増した、子どもの感染。
(中略)
「家庭内感染で感染したお子さまが保育園へ来て、それで保育園でお子さまにうつして、そこから違うお子さまが、おうちの中へうつしてしまうというパターンはありますね」

クリニックばんびぃに院長 東京小児科医会理事 時田氏
お子さんが家に(ウイルスを)持ち込む子どもから親へ感染するという可能性はいままでもよりも高まっている

文科省の動向


専門家や慎重派の保護者が危機感を募らせるなか、文科省は2021年8月17日の事務連絡で「可能な限り、学校行事や部活動等も含めた学校教育活動を継続し、子供の健やかな学びを保障していくことが重要」と述べたうえで、「小学校及び中学校については、現時点で家庭内感染が大部分であることも踏まえれば、子供の健やかな学びの保障や心身への影響等の観点からも、地域一斉の臨時休業は避けるべき」との方針を改めて周知しました。

一方、その後感染拡大が深刻化している状況を踏まえたのか、同年8月20日には、文科大臣が記者会見で以下の見解を示すとともに、「緊急のお知らせ」として、新たな事務連絡を発出しました。

全国的な一斉休校は求めない考えを明らかにした。ただ、地域ごとの感染状況を踏まえ、学年や学校単位での休校については「当然考えられる」と述べ、学校ごとに判断すべきだとの見解を示した。

また、休校となった場合に備えて、オンライン授業が円滑にできるよう準備を求めた。


事務連絡には、私が作成した要望書と合致する内容があるため、注目点を抜粋します。

  • 十分な換気ができているか確認するためには、換気の指標として、学校薬剤師等の支援を得つつ、CO2モニターにより二酸化炭素濃度を計測する
  • 不織布マスクが最も高い効果を持ち、次に布マスク、その次にウレタンマスクの順に効果があるとされていることを踏まえ、このことを保護者に適宜情報提供する
  • 一定の期間児童生徒がやむを得ず学校に登校できない場合などには、例えば同時双方向型のウェブ会議システムを活用するなどして、指導計画等を踏まえた教師による学習指導と学習状況の把握を行う
  • 教科書と併用できる教材等(例えばデジタル又はアナログの教材、オンデマンド動画、テレビ放送等)を組み合わせたり、ICT 環境を活用したりして指導する
  • 学習者用デジタル教科書やデジタル教材等を用いたり、それらを組み合わせたりして指導する
  • 端末の持ち帰りを安全・安心に行える環境づくりに取り組む
  • 家庭の事情等により特に配慮を要する児童生徒に対しては、ICT 環境の整備のため特段の配慮措置を講じたり、地域における学習支援の取組の利用を促したり、特別に登校させたりするなどの対応をとる

なお、高校を対象としていた抗原検査キットの配布とワクチン接種については、首相が同じタイミングで以下の方針を打ち出しました。

児童や生徒の感染拡大を防ぐため、感染の有無を調べる「抗原検査キット」を幼稚園と小中学校に配布する方針を決めた。

教職員から子どもへの感染を防ぐため、教職員がワクチン接種を優先的に受けられるように地方自治体に協力を求める方針も示した。

2学期を目前に控えたタイミングであることから教育委員会と学校の負担は大きそうですが、これらの施策は、デルタ株がまん延するなかで、学校での感染リスクを軽減・回避する上で意義深いものです。

また、同事務連絡では、「登校できない児童生徒への ICTを活用した学習指導に関する事務連絡を、近日中に別途発出」と述べられているため、動向を注視していきます。

各自治体の動向


この数日間で、夏休み延長を含め、各自治体が様々な動きを見せています。

私は一時しのぎの夏休み延長や弊害の大きい単純な休校ではなく、分散登校や選択登校制とオンライン授業の組み合わせを推しています。一方、夏休み延長や休校も、その後の対応の準備のためであれば、各地域の状況を踏まえた現実的な判断と捉えています。

小中学校に関わる取り組みを中心に、こちらも時系列でいくつか見てみましょう。

群馬県

東京都
小中学校について、都の教育委員会は通学の範囲が限られるため、時差通学などは求めないものの、オンラインも活用しながら工夫して授業を行うよう、区市町村に今後改めて通知することにしています。

相模原市
相模原市内では新型コロナウイルスへの感染が確認された小中学生が、1学期は1日1人ほどでしたが、夏休みに入って6倍以上に増えました。

2学期は今月25日から始まる予定でしたが、市は感染の急拡大を受けて、相模原市立の小中学校など106校を今月末まで臨時休校にすることを決めました。来月以降は分散登校などを取り入れたうえで再開する予定ですが、今後の感染状況によっては休校を延ばす可能性もあるということです。

臨時休校の期間中は学校での授業は行わないものの、希望する家庭の子どもは、授業がある予定だった時間帯に学校で預かることにしています。

岐阜県
県内高校の夏休み明けの授業を基本的にオンラインとする方針を示した。まん延防止等重点措置の適用期間が対象で、小中学校は地域の感染状況に応じて対応し、オンラインの活用や学年別、通学班別の登校を検討してもらう。

北九州市

長野県
対面授業とオンライン授業、自宅学習を併用して生徒同士の接触を減らし、感染リスクの高い学習は行わないよう授業の工夫を求めた。対面授業と自宅での学習を学年で日ごとに分けるといった対応を例に上げ、具体的な対応は各学校で判断する。
(中略)
原山隆一教育長は18日の記者会見で「全国的に爆発的に感染が拡大し、以前の状況とは異なる」と指摘。感染力の強いデルタ株の流行を背景に、夏休み明けの集団感染を防ぐ狙いだ。

川崎市

寝屋川市

横浜市
横浜市立山内小学校 佐藤正淳校長「机を見ていただくとわかるんですが、デルタ株(インド型)は1メートルよりも長いディスタンスと言われてきてますので」
(中略)
「こちらが横浜市の方ですべての小学校に配られているタブレット」すでに学校側には一定期間登校を控えたいという声も届いていて、オンライン授業ができないか準備を進めているということです。

三重県
夏休み明けから県立学校で分散登校を実施すると発表した。県内での「まん延防止等重点措置」が期限を迎える9月12日まで実施する。
(中略)
今月は県内で既に300人を超える児童生徒や教職員が感染するなど、感染状況が深刻化していることを受けて判断した。

県立高校では学年ごとに午前と午後の登校に分け、昼食をなくす。
(中略)
期間中はオンライン授業や課題の配布などで自宅での学習を促す。
(中略)
県教委は市町の教育委員会にも通知文書を出し、小中学校の対応を検討するよう促した。

県教委高校教育課は「生徒からは一斉休校に不安の声があった。少しでも対面授業ができるよう分散登校の実施を決めた」と説明。

江東区


江東区議会議員 さんのへ議員のブログに共感する部分が多いため、併せて引用します。

全国的には夏休み期間延長による「一斉休校」を要望する声も上がっていますが、子どもの居場所確保や困窮世帯への食の保障等を鑑みると、子どもに対する支援の無い状態を延長させる事は現時点では芳しくないと考えております。

居場所確保は必要。しかしリスクの高い子ども達の登校を強制させる必要は無い。登校賛成派、休校賛成派の両方から意見を伺いながら理解を深め、その結果として以下の方法が最善ではないかと考えました。
(中略)
今こそ、当方が区民の方と共に議会で働きかけてきた「選択制オンライン授業」の実施が望ましいと考えます。

実際にタブレット配布が完了した1学期では、生徒の感染が確認された場合においてオンライン授業配信を実施する事で対応をしてきた実績があります。
(中略)
オンライン授業と対面授業を同時に実施することが教職員の負担増につながってしまうことも事も懸念しております。
サポートスタッフの増員を視野に、区議会においても財源措置等を実施していく必要があると考えております。

今問題なのは、新学期開始前の現時点で「オンライン授業が実施できない学校」があってはならないという事です。

災害時等の緊急事態において、江東区はオンラインでの授業配信を行うべく準備を進めてきました。

今対応できないのであれば、何故対応できないのか、どうしたら対応できるようになるのかを調査し、改善に向けて動く必要があります。

熊本市

京都市

さいたま市

さいたま市議会議員 たけこし氏のブログより、市教育委員会が保護者に向けて行った通知の一部を抜粋します(同市在住の方によると、同市の「ハイブリッド授業」では「出席」ではなく「出席停止」扱いとなるため、他自治体の選択登校制とはその点で異なるようです)。

ハイブリッド授業の実施
(1)2学期の始業から、緊急事態宣言期間中、通常登校を希望する児童生徒には学校における通常授業を行い、登校を控えることを希望する児童生徒にはオンライン授業を実施します。
(2)タブレットの持ち帰りや、必要に応じてルーターの貸与を行います。
(3)オンライン授業に参加した場合は、欠席とはいたしません。
(4)御家庭でのオンライン授業の参加方法については、さいたま市立教育研究所のホームページに掲載した資料「[家庭向け]Teamsを活用した家庭でのオンライン授業の方法」を御参照ください。http://www.saitama-city.ed.jp/onlinejugyou.pdf
(5)オンライン授業を希望する場合は、後ほど各学校から発出される学校安心メールに記載された方法(Forms等のアンケート機能)により、学校に対してお申し出ください。8月25日(水)から受付を開始します。

調布市
オンライン授業の準備を兼ねて第一小学校では25日、タブレット端末で学校の教室と夏休み中の子どもたちの自宅を結んで「朝の会」を行い、双方向のやりとりが出来るかどうか確認しました。
(中略)
担任の教諭らからは、子どもたちの反応も良く顔が見えて安心したという声や、授業での活用だと一方通行にならないように注意が必要だといった声が聞かれました。

佐野市
市立小中義務教育学校の夏休み期間を延長し、九月十二日まで臨時休業とすると発表した。期間中、オンライン授業を行い、学力の維持・向上を図る。
(中略)
金子裕市長は「十代以下の感染が拡大しており、最大限の危機感を持っている。考えられる対策はすべて行う」と強い口調で語った。

平塚市
・8月30日(月)から9月3日(金)まで「新型コロナウイルス感染拡大防止のため臨時休業」とする。
・9月6日(月)から9月10日(金)までは授業時間を短縮した午前授業とし、給食・昼食はなしとする。

守谷市
市立小中学校で25日、夏休み明けの授業がオンラインで始まった。
(中略)
市教委の町田香教育長は「学校内でのクラスター未然防止を最優先とした。休校することなく学びの保障を確実にしたい」と話す。
(中略)
児童生徒は通常の授業でもタブレット端末を活用。本年度には学校と家庭間限定のポータルサイトを全校で構築し、臨時休校に備えてオンラインでも授業ができるよう試行してきた。

三浦市
三浦市立小中学校については8月31日(火曜日)より、接触機会の減少などの感染予防対策を実施の上で、2学期の教育活動を開始します。また、感染への不安により登校を見合わせる児童生徒への学びの保障として、9月2日(木曜日)より授業のオンライン配信を開始するとともに、希望者にはタブレット端末を貸し出します。

鈴鹿市
末松則子市長は26日の定例記者会見で、市立小中学校2学期始業の9月1-3日を午前中のみの分散登校とし、6-10日はオンライン授業を実施すると発表した。10日までの学校給食は実施しない。

分散登校は地区別や学年別など学校ごとに判断し、子どもたちにオンライン授業の説明などをする。オンライン授業を受けるのは初めて。通信環境がない家庭には通信機器を貸し出して対応する。

前橋市
小中学校などで新学期が始まった前橋市で、感染への不安から登校を控える児童生徒が自宅でタブレット端末を使ってオンライン授業を受けられるようにすると発表した。
(中略)
市教委によると、夏休み明けの27日、感染への不安から登校を控えた児童生徒は283人。周囲に感染者が出て濃厚接触者になり自宅待機を強いられる場合なども想定し、3月、全員に貸与したタブレット端末を活用することにした。
(中略)
「感染への不安から登校を控えさせたいという保護者らの意向にも応えたい」としている。

ここで挙げた自治体以外の対応については、以下が詳しいです。

文科省と各自治体の最新動向と保護者の意見を踏まえて、藤沢市教育委員会にも迅速・柔軟な対応を望みます。

災害レベルという認識が必要な感染爆発期にあって、藤沢市の鈴木市長と岩本教育長には、国や県からの通達を待たずに「先手」を打つリーダーシップを期待します。

教育委員会への要望書


ご賛同・ご協力頂いた多くの方々への感謝を込めて、以下に全文を公開します。



令和3年8月17日

藤沢市教育委員会教育長 岩本 將宏 様



市立学校における
新型コロナウイルス感染症対策の強化に関する要望



拝啓 貴教育委員会におかれまして、日頃より児童生徒の健全な育成と新型コロナウイルス感染症対策に全力で取り組んでいただいていることに、心より感謝申し上げます。
 さて、この数か月にわたり、子どもも感染しやすく [1]、感染性や重症化リスクが高い [2] とされる変異株が県内でも広がっています [3]。同時に国内でも子どもの重症化 [4]、多系統炎症性症候群(MIS-C) [5]、後遺症(Long Covid) [6] などの深刻な症例が確認されはじめました。今後は、子どもが伝播の核となり、他の年齢層に感染が波及することを防ぐ必要があるという専門家の指摘もあります [7]。
 厚生労働省、県、市のデータからも、子どもの感染者と学校クラスターが増加傾向にある [19] ことが明らかですので、学校における感染対策の強化が急務と考えます。
 つきましては、市立学校に通う児童の保護者として、以下要望します。新学期に向けて、最新の科学的な知見と他の自治体の動きを踏まえ、適切な対策を迅速にご検討いただければ幸いです。


敬具


  1. 恒久的な対策

    • 空気を介した感染リスクの注意喚起と換気の更なる徹底 [8]

    • 教職員向け:不織布マスク相当の高性能マスクの着用推奨 [9]

    • CO2モニター、高性能空気清浄機(HEPA/MERV13等)の設置 [10] 

    • 感染者発生時の濃厚接触者に限らない一斉検査の実施 [11] 

    • 学級/学年閉鎖および休校時のオンライン授業の導入 [12]

    • 希望する教職員向け:ワクチンの優先接種[13]


  1. 地域の感染レベルに応じた対策
    感染急増期(ステージ3)

    • 合唱、管楽器などのハイリスク活動の延期・中止 [14]

    • 生徒向け:不織布マスク相当の高性能マスクの着用推奨 [9] 

    • 教職員向け:学校での社会的(定期)検査の実施 [15] 

感染爆発期(ステージ4)

  • 希望する生徒向け:学校/自宅での社会的(定期)検査の実施 [15] 

  • オンライン授業と選択登校制/分散登校の導入 [16, 17]


以上


付録1:貴教育委員会の通達に関する意見


藤沢市立学校における教育活動について(2021年4月12日付)


同プリントでは、「常時喚起を基本とし、原則、マスクを着用し、児童生徒同士の間隔を可能な限り確保」という前提のもと「合唱及びリコーダーや鍵盤ハーモニカ等の演奏は近距離では行わず、2mの距離を取り、十分感染症対策に配慮して行います」とされております。

一方、まん延防止等重点措置(ステージ3相当)/緊急事態宣言(ステージ4相当)の対象期間は、文科省の衛生管理マニュアルにおける「レベル2」または「レベル3」に該当すると理解しております。それぞれ、以下のように整理されています。

レベル3:感染リスクの高い教科活動は行わない

レベル2:拡大局面では停止、収束局面では感染リスクの低い活動から徐々に実施


従いまして、まん延防止等重点措置/緊急事態宣言の期間中はこのようなハイリスク活動は見合わせるとすることが妥当と考えます。


学校におけるマスクの取り扱いについて(2021年6月18日付)


同プリントでは、文科省の衛生管理マニュアルに沿って、2m以上の「十分な身体的距離が確保できる場合は、マスクの着用を不要とします」とされております。

しかし、換気が不十分な密閉空間では、距離を取っていても運動、歌う、叫ぶといった行為を伴うと感染リスクが高まる [8] とされています。また、感染力の高い変異株の場合、2mの距離でも感染リスクが2倍に高まるとの研究結果が出ている [18] ことから、変異株への置き換わりが進む中、こちらの記述は見直していただけないでしょうか。


特に、「密閉空間では適切なマスク着用は感染予防の上で重要である」という点を補足いただく必要があります。


現在の指針は、変異株によって前提が変わってきている中で換気が十分に出来ていない場合でも、身体的距離による効果を過信することにつながると危惧しております。


付録2:子どもの感染者と学校クラスターの増加 [19]

 20歳未満の感染者が全体に占める割合の推移

全国のクラスター発生件数(月別)

※7月は7月25日発生分まで注4


全国のクラスター件数(2021年7月5日以降の3週間分321件の内訳)


  • 医療機関9件(2.8%)

  • 福祉施設71件(22.1%)

  • 飲食店60件(18.7%)

  • 運動施設14件(4.4%)

  • 学校・教育施設74件(23.1%)

  • 企業86件(26.8%)

  • その他7件(2.2%)



付録3:根拠および他自治体の取り組み
  1. 新型コロナ変異ウイルスについて | 国立成育医療研究センター
    https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/news/CHeniVirus20210508.html

  2. コロナ「デルタ株」は子供にとってより危険 警戒を強めるべき理由
    https://forbesjapan.com/articles/detail/42207/1/1/1

  3. 新型コロナウイルス感染症による患者確認について(7月17日版)
    https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/prs/r8981374.html

  4. 新型コロナウイルス感染症の小児重症例について
    http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=129

  5. COVID-19 に続発する多系統炎症性症候群(MIS-C)の発生について
    https://jsn.or.jp/medic/data/notification_20210316.pdf

  6. 「データベースを用いた国内発症小児COVID-19症例の臨床経過に関する検討」への参加のお願い
    http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=344

  7. 国際的なサッカー選手権で見えた答え合わせ 専門家が命を守るために提示する3つの選択肢
    https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura-20210706-2

  8. 新型コロナの感染経路 いま分かっていること、いまできること
    https://news.yahoo.co.jp/byline/sakamotofumie/20210508-00236853/

  9. マスクの選び方は? ウレタンは性能劣る【素材別の比較結果】
    https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fd6c3bec5b62f31c1fe4eb8
    政府分科会・尾身茂会長 ウレタンマスクより不織布マスクを、感染防止に効果的
    https://news.yahoo.co.jp/articles/f7925b20c9b05c0560d2a567441f08c17972eb8a
    杉並区立学校感染症対策と学校運営に関するガイドライン
    https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/065/099/0306kansenguideline.pdf
    新型コロナウイルス感染症予防のための不織布マスクの着用について(目黒区)
    https://www.meguro.ed.jp/weblog/files/1310017/doc/79586/1203149.pdf

  10. 冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法
    https://www.mhlw.go.jp/content/000698868.pdf
    教育現場での対応 – コロナ対策換気視覚化CO2モニター情報
    https://covidco2jp.wordpress.com/2021/01/17/education/

  11. コロナ15人感染確認 米子の児童2人の学校1200人を検査
    https://www3.nhk.or.jp/lnews/tottori/20210714/4040008813.html
    大量のPCR検査を可能とする「プール方式」を採用し、学校クラスター防止、子供の安心・安全の確保(墨田区)
    https://twitter.com/Stove_san/status/1409850561608912903?s=20

  12. 熊本市でオンライン授業はなぜ進んだのか
    https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20210129-00220071/
    休校やオンライン授業を想定した準備、小中学校はできているか?
    https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20210420-00233649/

  13. 6月中旬から教育関係者にワクチン接種/藤崎町
    https://www.toonippo.co.jp/articles/-/540127
    突然キャンセルされたワクチンの活用法、市長投稿に共感の声「ナイスアイデア」
    https://www.yomiuri.co.jp/national/20210517-OYT1T50277/

  14. 中学合唱クラスター相次ぎ…文科省が全国に緊急通知
    https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000200674.html

  15. 世田谷区、教職員にPCR検査…新型コロナ対策
    https://reseed.resemom.jp/article/2020/11/17/848.html
    熊本市が小中学校にコロナ検査キット 補正17億円提案へ
    https://kumanichi.com/articles/271280

  16. ライブ配信授業に注目 「選択登校制」コロナで導入 寝屋川市教委 /大阪
    https://mainichi.jp/articles/20210323/ddl/k27/100/337000c
    「コロナ禍後は学校の選択登校制を希望」多く 全国1万人の意識調査 https://www.sentankyo.jp/articles/365a08b5-24bd-4c07-b825-8cbfd8ec85c0

  17. 市町村立小中学校・義務教育学校版 通常登校における ガイドライン(埼玉県教育委員会)
    https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/172549/021030sityousonn-gideline-ver3-2.pdf

  18. インド型、2m離れても会話で感染リスク2倍…「富岳」が計算
    https://www.yomiuri.co.jp/science/20210624-OYT1T50224/

  19. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-
    https://covid19.mhlw.go.jp/
    新型コロナウイルス感染症の国内発生動向 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000713230.pdf, https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000627541.pdf
    都道府県別エピカーブ(2020/11/1から2021/7/26まで)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000812896.pdf
    新型コロナウイルス感染症対策 陽性患者数及び陽性患者の属性データ
    https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/dst/s0629831.html




別添資料:小中学校のオンライン学習をめぐる国内外の動向


国内の動向


概況

  • 一時的な臨時休校や分散/時差登校によるリスク軽減の試みは自治体の裁量で実績があるものの、オンライン学習の広がりは限定的な状況です [1, 2]。

  • 文科省の通知によれば、感染症・災害等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対して、校長が合理的な理由(※)があると判断した場合は欠席とせずオンラインを活用した特例の授業として指導要録に記録できますが、例外的な扱いになっています [1]。

  • 地域一斉の臨時休校は「学びの保障」や家庭学習困難な子どもの受け入れ先の問題があり文科省も慎重な姿勢を見せています [4, 5]。一方、感染爆発地域において対面授業一択となりますと、基礎疾患のある子どもや感染リスク回避を重視する家庭を自主休校に追い込むことになります [6]。

  • 一部自治体(熊本市、福岡市、寝屋川市)では多様な家庭のニーズを踏まえた選択登校制を導入し、「学びの保障」と感染対策を両立しています  [7]。

  • 先行自治体では、一定の要件を満たせば、病気療養児や不登校児に対して、校長が「指導要録上出席扱いとすることができる」という文科省の通知 [1] を根拠として、オンライン学習を展開しています。例えば福岡市では「感染への心理的不安を理由にオンライン授業を受けた子が、この通知内容に該当する」と解釈しています [8]。

  • 選択登校制は感染爆発地域における対策として現実解の一つとなりますが、文科省は一律に選択制を認めると「間違ったメッセージ」になるとし、「対面が原則」という方針を明らかにしています [9]。

  • 多くの自治体は [10] この原則を踏襲し、選択登校制については文科省の新たな指針待ちというスタンスであり、不登校児に関する通知の弾力的運用やオンライン学習については、首長や教育長の方針やリーダーシップに依存しているのが現状です。その結果、自治体間で格差が生じています  [11]。


提言

  • 現時点で制度上の壁はなく、先行事例も存在することから、感染爆発期にある市内の現下の状況を踏まえて、貴教育委員会が主体的に選択登校制を検討・推進すべき局面と考えます。

  • 各家庭でのネット環境の不備や教員の過度な負担などの問題 [12] も先行自治体では報告されていますので、拙速なオンライン学習の展開には、相応の混乱も予想されます。

  • 熊本市や寝屋川市などの経験 [13] を踏まえることと併せ、準備状況等でどうしても対応が難しい場合や、オンライン学習が難しい小学校低学年については分散登校とオンライン学習を組み合わせる [14] など、柔軟な対応も望まれます。


※合理的な理由:
生活圏において感染経路が不明な患者が急激に増えている地域で、同居家族に高齢者や基礎疾患がある者がいるなどの事情があって、他に手段が無い場合など [3]



海外の動向


概況

  • ホームスクーリングやホーム・ベースド・ラーニング(HBL)が公式に認められてきた諸外国(前者は米国、カナダ、英国、後者はシンガポール)では、コロナ禍でオンライン学習に移行する際の壁はなく、家庭のリスク評価に応じて選択の自由が尊重されています [15]。

  • その他の諸外国(ドイツ、オーストリア、オランダ、中国、香港、台湾、フィンランド、ニュージーランド、チリなど)でも、オンライン学習、分散登校、実質的な選択登校制の展開が見られます [16]。

  • 自治体や学校における裁量が大きいオーストラリアでは(早期の登校再開が見えていたこともあり)オンライン学習の広がりにはバラツキがあったとの報告がありました。また、インターネット基盤が整っていないインドでは、一日中オンラインでなくとも使用可能な教材を用意したり、テレビやラジオを活用したりするといった工夫も見られます [17]。


提言

  • 選択登校制を検討する際、参考となる海外の事例は教育・IT先進国シンガポールのホーム・ベースド・ラーニング(HBL)と考えます。シンガポールのHBLの特徴は以下の通りです [18]。

    • 感染が落ち着いているときに一部の学校で月2回実践し経験を積んでいる
      (対面とオンラインのブレンデッド・ラーニング)

    • 変異株の子どもへの影響や感染レベルなど科学/客観性を重視している
      (対面⇔ブレンデッド⇔完全HBL間を柔軟かつスムーズに移行)

    • 学校がカリキュラムを提供している
      (親が教えるホームスクーリングとは異なる)

    • 在宅学習が難しい生徒には学校を開放している
      (両親ともにエッセンシャルワーカーなど)

    • オンラインのみならずハードコピーの教材も活用している
      (スクリーン・タイムが長くなりすぎないようにする)

    • デジタル機器やインターネット接続が必要な家庭への支援を行っている
      (生徒自身の機器が使える場合はそちらを使う)

    • 保護者の不安を取り除くためのコミュニケーションを重視している



付録1:根拠および国内の取り組み
  1. 遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証成果報告会
    https://www.mext.go.jp/content/20210308-mxt_jogai02-000010043_001.pdf

  2. 緊急事態宣言を5月末まで延長 6都府県とも学びを継続
    https://www.kyobun.co.jp/news/20210507_06/

  3. 【事務連絡】新型コロナウイルス感染症等により登校できない児童生徒等の出席等の取扱いについて(周知)
    https://www.mext.go.jp/content/20210518-mxt_syoto02-000007000_1.pdf

  4. NPO理事長「休校しないことは重要」 貧困家庭の窮状訴え
    https://www.kyobun.co.jp/news/20210113_03/

  5. 緊急事態宣言出ても「地域一斉の休校は慎重に」 文科相
    https://www.kyobun.co.jp/news/20201127_05/

  6. コロナで “自主休校”7000人超 感染不安で学校に行けない子どもたち
    https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20210407.html

  7. 「コロナ禍後は学校の選択登校制を希望」多く 全国1万人の意識調査
    https://www.sentankyo.jp/articles/365a08b5-24bd-4c07-b825-8cbfd8ec85c0

  8. オンライン授業も「出席」に 福岡市教委が通知
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/670249/

  9. 萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和2年12月8日)
    https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00117.html

  10. 忖度ばかりの学校現場、教師が激白「オンライン導入は永遠に潰され続ける」
    https://www.businessinsider.jp/post-215332

  11. コロナで出席停止、学びはオンラインで保障 GIGAスクール構想で
    https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2103/16/news054.html
    全国で登校選択制の導入を訴える会 - 投稿
    https://www.facebook.com/sentakusei/posts/273468377730219

  12. コロナ拡大で休校 家庭での感染防止徹底を
    https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1333971.html
    休校やオンライン授業を想定した準備、小中学校はできているか?
    https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20210420-00233649
    「何時に帰れるのか」急な休校の準備に疲れ切る教員 リモート授業に半数が参加できず
    https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/764717
    大阪市のオンライン授業も延長 学校で差、学びに不安
    https://www.sankei.com/life/news/210510/lif2105100045-n1.html

  13. 全公立小中校で導入、オンライン授業の舞台裏 熊本市教育長に聞く
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/609279/?fbclid=IwAR2HA9N419uCxt79afbjb2TpxGXvO52FIT5P20J2mfUcGFLCB3u1SeNxaj4
    熊本市でオンライン授業はなぜ進んだのか 【GIGAスクールの成否を分けるもの】
    https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20210129-00220071
    「オンライン授業はコロナ理由に限定」、福岡市教育委の通知に不登校の保護者落胆
    https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20200622-OYT1T50231/
    福岡市でオンライン土曜授業 市立小、初の一斉実施
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/684379/
    ライブ配信授業に注目 「選択登校制」コロナで導入 寝屋川市教委
    https://mainichi.jp/articles/20210323/ddl/k27/100/337000c

  14. "サテライト授業"で分散登校の課題を解決した宝仙学園小学校
    https://www.pc-webzine.com/entry/2020/10/post-395.html



付録2:根拠および海外の取り組み
  1. 日本は遅れている? コロナ禍の海外の教育事情に日本が思う事は?
    https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/smp/business/entry/2020/021849_amp.html?__twitter_impression=true
    コロナ禍のアメリカの教育~個人のニーズへの対応と教育格差
    https://www.blog.crn.or.jp/report/02/288.html
    【カナダBC州の子育てレポート】 第10回 コロナウイルス状況下のオンライン学習
    https://www.blog.crn.or.jp/report/09/370.html
    【新型コロナウイルス】ロックダウン中のロンドン、ホームスクーリングの様子
    https://tabicoffret.com/article/79134/index.html
    アフターコロナの 教育のあり方を探る
    http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_381/04_sp.pdf

  2. オンライン授業(5)~ドイツ
    https://creativekids.jp/?p=20756
    【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第41回 新型コロナウイルスによる学校閉鎖の影響
    https://www.blog.crn.or.jp/report/09/361.html
    コロナ禍で「ICT教育」が進化したオーストリアから、日本が学べること
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80490?imp=0
    【コロナ禍の教育】世界の学校ではどう取り組んでいる?ーオランダ編
    https://teachforjapan.org/entry/column/2020/12/28/covid19-schools-netherlands/
    コロナ禍の中国でオンライン教育が一気に広がった理由とは?
    https://www.watch.impress.co.jp/kodomo_it/news/1270368.html
    オンライン授業(3)~中国
    https://creativekids.jp/?p=20440
    台湾、28日まで全ての学校閉鎖 コロナ新規感染者は240人に減少
    https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-taiwan-education-idJPKCN2CZ0P9
    香港日本人学校香港校オンライン授業の取組
    https://ag-5.ecbeing.biz/cms/ag5/common/pdf/post/Hong_Kong.pdf
    香港のコロナ規制と小学校の備忘録
    https://note.com/sarthakshiksha/n/n6353c509857f
    教育ICT先進国フィンランドにおける、新型コロナ対応―授業のオンライン化で生徒たちの反応は?
    https://edtechzine.jp/article/detail/3816
    【ニュージーランド子育て・教育便り】 第16回 ロックダウン時の子どもの学習
    https://www.blog.crn.or.jp/report/09/362.html
    約1年ぶりに学校の対面授業再開も、新型コロナ感染第3波の到来を懸念(チリ)
    https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/03/d4676b5f410ee52e.html

  3. “IT教育先進国”オーストラリアでも、意外にオンライン授業が進まなかったワケ
    https://president.jp/articles/-/36342
    【コロナ禍の教育】世界の学校ではどう取り組んでいる?ーインド編
    https://teachforjapan.org/entry/column/2020/12/28/covid19-schools-india/

  4. 自宅学習でも心配なし?充実したシンガポール公立校のオンライン授業
    https://kids.athuman.com/cecoe/articles/000116/
    文科省と自治体は今すぐホーム・ベースド・ラーニング(HBL)導入を!
    https://dadshonan.blogspot.com/2021/06/hbl.html




注1:なお、2021年8月17日時点の厚労省のサイト「性別・年代別新規陽性者数(週別)」で直近1週間のデータを見ると、20歳未満が18.3%に上っているのも気になります。

  • 全体120,970人
  • 10歳未満7,441人(6.2%)
  • 10代14,734人(12.2%)


神奈川県と藤沢市の同期間における傾向は以下の通りです。

まず、神奈川県のデータによれば、2021年8月17日時点で、全体に占める20歳未満の割合は13.5%です。同7月27日時点は11.6%でしたので、全国同様、夏休みですが増えています。

  • 全体115,179人
  • 10歳未満5,009人(4.3%)
  • 10代10,499人(9.1%)


次に、藤沢市のデータによれば、2021年8月17日時点で、全体に占める20歳未満の割合は14.4%です。同7月27日時点は11.9%でしたので、こちらも増えています。なお、職業別の傾向を見ると、会社員1,754人(39.8%)、無職833人(18.9%)に次いで学生537人(12.2%)となっています。

  • 全体4,740人
  • 10歳未満273人(5.8%)
  • 10代410人(8.6%)


夏休みが明け、学校が再開することで、子どもの感染者が数としても、割合としても増えていくことが懸念されます。

注2
:最近では、以下の報道もありました。

ニューヨーク・タイムズが7月下旬に入手したCDCの内部文書には、デルタ株は水ぼうそう並みの感染力を持ち、「(イギリスで最初に特定された)アルファ株などの従来株よりも深刻な症状を引き起こす可能性がある」と記されていた。

注3
:私は感染リスクの回避・軽減と「学びの保障」を両立するには、地域での一斉休校の前に「オンライン授業と選択登校制/分散登校の導入」を進めるべきとの立場ですので、一斉休校については触れていません。

注4:提出した要望書では単に「学校」としていましたが、原典の表記に沿い、ブログでは「学校・教育施設」に訂正しました。

このブログの人気の投稿

新型コロナと子どものリスク(3)