新型コロナと子どものリスク(3)

前回は、新型コロナと子どものリスクについて、起こりやすさ(発生確率)と起きたときの損失(影響度)という二軸で整理しました。今回は、リスク管理のフレームワークの各象限で、親としてどのような対策をとるべきか、考えてみます。


回避


新型コロナの発生確率が高く、影響度も大きいときは、リスクの発生を回避する必要があります。幼い子どもの感染リスクの多くは、ほとんどの時間を過ごす家庭内と学校の感染対策に依存しています。

2021年5月20日に日本小児科学会が公開した見解によれば、子どもの新型コロナ患者の「大部分は成人患者からの感染であり、第4波に入ってからも変化していない」とされています(2021年7月23日追記:この見解の妥当性については、本当に新型コロナの「子どもの感染者は少ない」のか?で検証しました)

仮にこのデータが実態を正しく反映しているとすると、まず大人が「家庭内に持ち込まないことが重要」です。

一方、同見解では「変異ウイルス感染者の増加に伴い、小児集団でのクラスター発生も散見されるようになってきました」ともあることから、学校での感染リスクも高まっているようです。

改めてまとめると目新しさはありませんが、個人レベルでの現実的な対策は以下のようになります。

  1. ハイリスクな場を避ける
    ショッピングセンターや遊園地などの混雑しているところや、人数、換気、人との距離などの観点でリスクがある「三密」のところに行かない。

  2. ハイリスクな地域に行かない
    感染ステージの高い流行地域への旅行、帰省などは控える。

  3. 人との接触を減らす
    家族以外との接触機会をなるべく減らすため、感染ステージが高い時期は可能であれば大人はリモートワークを、子どもは家庭学習を行う。

1.については、子どもは密になりやすい学校でマスクをはずして食事をしているため、通学している限りは難しそうです。

2.についても、居住地で感染が広がると、生活圏自体がハイリスクな地域になってしまっています。

そこで、回避策として残るのは3.の家庭学習になります。

一方、オンライン学習や選択登校制が広く公式に導入されていない自治体では、家庭学習は自主休校(または自主欠席)と呼ばれて少数派になるため、対面授業に戻ったときに周囲に馴染めるのか、親としては不安も大きいです。

2021年5月18日の文科省による事務連絡で示されたフローチャートでは、一般児童の親が「感染が不安で休ませたい」ときには、以下の条件をクリアして初めて「オンラインを活用した特例の授業」とみなされるとされています。

  • 校長が合理的な理由(注1)があると判断する
  • 一定の方法によるオンラインを活用した学習の指導を受けたと校長が認める

この条件は、非常に限定的です。また、各校長の裁量にゆだねる形になっており、自治体や学校で対応に差が出る結果となっています。


ホームスクーリングやホーム・ベースド・ラーニング注2)が公式に認められている諸外国(コロナ禍における前者の例は米国カナダ英国、後者の例はシンガポール)では各家庭のリスク評価に応じて、選択の自由があるのと対照的です。ホーム・ベースド・ラーニングについては、以下で解説しています。併せてご覧ください。


感染が急拡大し、医療がひっ迫している地域では、新型コロナは身近に迫ったリスクです。学校で感染者やクラスターが出ているのであれば、なおさらです。

国内で子どもの重症化、小児多系統炎症性症候群(MIS-C)、後遺症(Long Covid)の事例が報告されている中、我が子だけ無敵ということはあり得ませんし、家庭内感染も深刻なリスクです。

2021年4月頭の時点で本人や家族にぜんそくなどの基礎疾患があったり、重症化リスクのある高齢者と同居していたりする小中学生が少なくとも7,000人以上自主休校をしているという報道がありました。文科省のフローチャートによれば、こうした明確な事情を伴わない自主休校は「単なる感染不安」と分類されます。

しかし、学校で実際に「クラスター発生も散見」されるようになっているなかで、リスクを回避する行動は十分「合理的」です。

むしろ、どんなに感染リスクが高まっていても、オンライン学習などの手段を整えず、対面授業一択になっている状況の方が非合理に見えます。

文科省は、「社会の宝」としての「子どもを守る」ことと「学びの保障」を両立するためにオンライン学習を「特例」としている方針を改め、感染状況が悪い地域では、一定期間オンライン学習や選択登校制を主体とし、むしろ対面授業を「特例」とするくらいの政策転換を行ってほしいです。

その際は自治体の差や現場の混乱を避けるために、感染者数、感染経路不明率、検査陽性率など、客観的な統一指標に基づくガイドラインを示す必要もあるでしょう。

軽減


共働きなどの事情で家庭学習が難しい家庭や、家庭学習のデメリットが感染リスクを上回ると判断する家庭は、子どもを通学させつつ、軽減策をとることになります。

具体的には、リスクの発生可能性を下げたり、リスクが顕在化したときの影響を小さくしたりするための対策として、以下が挙げられます。

  1. 発生可能性を下げる
    子どもの小さな顔にフィットしたフィルタ性能が高いマスクを用意し、適切な着脱方法やアルコールでの手指衛生など基本的な感染予防策を家庭で指導する。(学校で許可が得られれば)携帯用アルコールを携行させる。

  2. 影響を小さくする
    家庭内感染を防ぐために環境を整える(HEPAフィルタ式空気清浄機を設置する、隔離部屋を決める、自宅療養の装備(注3)や備蓄品を用意する、など)。発熱外来や自費検査が可能な病院の連絡先、診察時間、受診の目安などを整理する。MIS-Cや後遺症の経過を理解し、疑われる症状が見られる場合の対処法や近場の後遺症外来を確認する。

日本ではwith コロナ政策で新型コロナのリスクが日常となっているなか、交通事故のリスクがあるから学校に通わないという子どもが見られないように、多くの子どもは登校を続けています。

一方、新型コロナのリスクは、以下の点で交通事故とは異なります。

  • 短期間で変異する
  • 未知のことが多い(MIS-Cや後遺症など)
  • 学校内の環境改善で軽減できる

学校環境については、以下のような対策強化が考えられます。

感染対策の強化ポイント:
  • 他クラスの生徒との接触機会の削減(学校版バブル方式)
  • 不織布マスクと同等以上の高性能マスクの適切な着用
  • 合唱、管楽器などのハイリスク活動の延期・中止・リモート化
  • 消毒液とディスペンサーの設置
  • 運動会など密になる不急のイベントの延期・中止・リモート化
  • 濃厚接触者に限らない幅広の一斉検査と地域の流行状況に応じた学校での社会的検査
  • 「空気を介した感染」リスクの注意喚起と換気の更なる徹底
  • CO2モニター、HEPAフィルタ式空気清浄機、UVGIの活用
  • 希望する教職員へのワクチンの優先接種

これらは多くが機能安全の考え方に基づく感染リスクへの対策となります。各対策の詳細については以下で解説していますので、併せてご覧ください。

転嫁


リスクを外へ転嫁(移転や共有とも呼ばれます)する行為をさします。

典型的な対策は、保険への加入です。

失われた健康や命は戻ってきませんが、子育てという事業を遂行する親の視点からは、生命保険や収入保障保険などに入っていれば、万一の場合でも、金銭面のダメージは抑えることができます。

個人事業主であれば、新型コロナ関連の手ごろな休業補償保険も出てきているようです。

なお、ここまでに挙げた対策は、各象限ごとに排他的ではなく、状況に応じて組み合わせることができます。

受容


リスクが許容範囲である、または現実的な対策がないためやむを得ずリスクを許容する場合があてはまります。

ここでは、学校で求められる手洗い、マスク着用などの対応以外には特別な対策をとらず、現状を受け入れることになります。

私は、変異株の流行と第4波およびまん延防止等重点措置地域にある今の学校環境が安全とは考えられませんので、個人レベルでは当面、軽減策で挙げたことを続けていきます。

また、感染ステージが上がった場合は、回避策にシフトすることもやむなし、と考えます。

おわりに


色々と述べてきたなか、これが結論?と思われるかもしれませんが、空気を介した感染リスクがとりざたされるなか、繰り返し強調したいことがあります。

それは、空気清浄機や機械換気など、空気を介した感染リスクへの対策が必ずしも十分といえない今の学校に通う子どもに対して親ができるほぼ唯一にして最大のリスク軽減策は、フィット感と性能の高いマスクを用意し、適切に着脱できるように指導することだということです。

学校では、エアロゾル感染に対しては無防備なウレタンマスクが結構多く見られますので、「マスク警察」にならない程度に、地道に啓発を続けることも重要ですね。


マスクの効果については、疑う余地のないエビデンスが蓄積されているようですし、マスクは受容のシナリオでも着用が求められるものですので、手軽にできる対策として、汎用性が高いといえます。


特定のマスクを禁止すると、メーカーや小売のビジネスを妨げ、愛着あるマスクが着用できなくなる弊害もあります。この施策はそうした影響に配慮しつつ、マスクの効果と変異株のリスクを知らしめることにもつながるため、効果的なリスク軽減策だと考えます。

自治体レベルですぐにできることですし、今は安価な不織布マスクが手に入りやすくなっていますので、感染ステージが高い今、神奈川県や藤沢市も続いてほしいです(但し、感染が落ち着いたら解除してよいでしょう。また、夏季は息苦しくなることもが考えられるため、屋外での活動では外す、熱中症対策をしっかりすることも大切ですね)。

今後も、子どもと学校をめぐる新型コロナのリスクや学校環境の改善、子どものマスクなどのトピックについて、素人ならではの素朴な提案や疑問を投稿していきます。


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注1:「合理的な理由」の例は以下の通りです。

生活圏において感染経路が不明な患者が急激に増えている地域で、同居家族に高齢者や基礎疾患がある者がいるなどの事情があって、他に手段が無い場合など

注2
:ホームスクーリングという用語は親が主体となり家庭内で教育を行うニュアンスが強いですが、家庭を拠点としながらも多くの時間を家庭外の教育機関で過ごすケースはホーム・ベースド・エデュケーションという表現が使われているようです。

シンガポールでは、学校が主体となってオンライン学習などによるカリキュラムを提供し、家庭学習を支援する形をとっており、同国の教育省はそれをホーム・ベースド・ラーニングと呼んでいます。

注3:自己判断でパルスオキシメーター市販の検査キットを購入して備えることも軽減策に該当します。但し、いずれも厚労省消費者庁は現時点で個人購入を勧めていません。

質が低そうな商品も出回っている現状を見ると、ニーズはあるのですからむしろ国として、信頼性の高い製品を認定した上で利用ガイドラインを定め、広報してほしいです。

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