本当に新型コロナの「子どもの感染者は少ない」のか?

日々子どもたちが新型コロナに感染しています。

実際どのくらいの子どもが感染しているのか厚労省のサイトに公開されているデータを確認してみます。


全国の子どもの状況


2021年7月27日時点の「性別・年代別陽性者数(累積)」で、全体に占める20歳未満の割合は11.4%でした。(カッコ内は全体に占める割合)

  • 全体864,462人
  • 10歳未満30,429人(3.5%)
  • 10代68,031人(7.9%)

2020年5月3日時点は同4%でしたので、1年強で2.9倍になっています(注1)。

次に、2021年7月29日時点の「集団感染等発生状況」を見ると、同年7月5日からの3週間で発生したクラスターの内訳は以下の通りでした。

  • 全体321件
  • 医療機関9件(2.8%)
  • 福祉施設71件(22.1%)
  • 飲食店60件(18.7%)
  • 運動施設14件(4.4%)
  • 学校・教育施設74件(23.1%)
  • 企業86件(26.8%)
  • その他7件(2.2%)


出典:厚労省

ワクチン接種が進みクラスターが減少している医療機関よりも、学校が多くなっています。また、福祉施設のうち児童福祉施設29件(9.0%)を付け替えると、酒類提供停止要請などの対象として注目されやすい飲食店や企業を大きく上回る103件(32.1%)ものクラスターが「子ども関連施設」で起きていることになります。

2021年7月7日の厚労省のアドバイザリーボード資料でも、東京の感染者が増加していることに加え、「20代中心に10-30代が多く、学校・教育施設のクラスターも散見されている」としています。また、同年7月14日の報告では「医療機関や高齢者施設でのクラスターが減少する一方、職場や学校・教育施設などでの発生が見られており、こうした場での感染予防の徹底等の対応が必要」と指摘しています。さらに、同年7月20日の報告では東京都で「10歳代以下での感染拡大が顕著で40-50代に近づきつつある。クラスターの発生が増加していることが要因」と推定しています。

2021年5月には既に以下の呼び掛けがありました。

西村大臣は、職場や学校でのクラスターが目立っていると指摘し「変異株の感染力が強く、これまで以上にアクリル板や換気、消毒、マスクの着用や距離をとることを徹底していただきたい」と呼びかけました。


2021年7月25日までの月別クラスター発生件数の学校・教育施設の割合を計算すると、6月までは多くても10数パーセントだったものが、7月25日時点で23.3%に上っています。

関連して、7月には以下の報道もありました。


アドバイザリーボードの構成員で東京iCDC運営委員会の委員を務める今村顕史医師も、以下のように発信しています。


結論


初めに結論を述べれば、「子どもの感染者は少ない」という見方は一面的で、すでに国内における子どもの感染者は多く、しかも増加傾向にあります。また、後ほど紹介するように、研究のバイアスがあるため子どもの感染者はもっと多いかもしれないこと、さらに子どもは感染しづらく、拡大しづらいという「通説」は誤りである可能性が海外の研究で指摘されています。

それでは、一つずつ、詳しく見ていきましょう。

「子どもの病気」になる新型コロナ


海外に目を向けると、ワクチンで感染者が減少していた英国でも、デルタ株による再増加が見られており、最近の感染の場所としては高齢者施設や病院は減少し、学校や職場が中心になっているとの報告があります。同様に、イスラエルでもデルタ株によって感染が拡大しており、直近の感染者はワクチン接種対象となっていなかった15歳以下の子どもで多く、学校に在籍する子どもの間で感染が広がったことが要因の一つとされています。

Natureの論考(COVIDは若者の病気になるか?)

シンガポールでは、デルタ株が幼い子どもにより多くの影響を与えるという判断に基づいて教育省が迅速に対応し、2021年5月からホーム・ベースド・ラーニングと呼ばれる在宅学習に移行しました。

国内でも東京はデルタ株への置き換わりが進行し、若い世代や中年層にも拡大している兆候あるとのことですので、警戒が必要です。

アドバイザリーボードの構成員で日本の感染状況の分析と対策の提言をリードしてきた京都大学の西浦博教授が、2021年7月7日の記事で重要な見解を示しています。

私が知る限りでは、国内の専門家がここまではっきり子どもと学校のリスクに言及したのは初めてです。長くなりますが、引用します。

東京のデータで注目されるべきは、先週の時点の東京都の発症日別、年齢群別の感染者数の増減です。
(中略)
65歳以上は予防接種も行き渡っているし、横ばいから少し増えているかなという程度ですが、他の年齢群は増えています。
その中でも顕著に増えているのは未成年です。特に未成年でも小中高の人たちの増加のスピードが、他の年齢群と比べると高いです。
他の都道府県でも学校で増えているという話が聞こえ始めています。デルタ株の特徴として、子どもを発病させやすいという特徴があるのです。
(中略)
子供が重症化するかどうかはアルファ株のデータも含めて見直していますが、もちろん全く重症化しないことはないです。重症化、死亡に至りそうな人のデータは表に出てきづらいので、今後整理しようと思っています。

一方、小中学生は軽症がほとんどです。この年齢層の感染者数を抑えておかなければいけないのは、まさに伝播の核になり、他の年齢群にも感染が波及するのを防ぐためです。デルタ株の拡大を抑えるために、学校閉鎖は相当有効な可能性があります。
これまでは学校閉鎖について触れると、文部科学省が会議に出席して抵抗し、専門家の中にも慎重な人たちがいました。

もちろん子どもの学習機会を尊重することは重要ですが、今の東京のデータをみる限りは、小中高生の中で感染が広がり、維持される可能性が高い。このリスクに正面から向かい合う必要があると思います。


「命を守るためにタブーなき議論を」と同氏が訴えているように、2020年の一斉休校以来、日本では新型コロナをめぐる子どもと学校のリスクを矮小化するような論調が主流を占めており、まさにタブー視されてきた印象です(これまで、異を唱える専門家がほぼ見られず、健全な議論がなされてないのは残念です)。

今後、大人のワクチン接種が進み、子どもの感染者や学校クラスターの割合が高まるとともに、子どもの重症化例が増えていくと、重要な政策課題としてクローズアップされることになるでしょう。

西オーストラリア大学の疫学・生物統計学者で新型コロナの子どもと学校のリスクに関して積極的に提言を行っているZoë Hyde氏は、2021年を新型コロナが子どもの病気となる年になると予測しています。



相対的人数 vs 絶対的人数


世界の事例や研究を踏まえると、新型コロナのリスクの軽減・回避策は明らかです。

軽減策:

回避策:


学校や子どもの感染対策は、「どうやればよいか」という試行錯誤の状況から、「どこまで本気でやるか(投資するか)」へフェーズが移りつつあります。

小さな子どもは大人の管理下にあり、家庭や学校の感染対策に依存していますので、その感染はほぼ100%大人の責任です。

日本で毎日幼い子どもたちが感染し、しかも割合として増加傾向にあるのは、水際対策など国全体の防疫の不備もさることながら、学校の感染対策の穴をふさぎきれていない私たち大人の「不作為」によるところもあると受け止めています。

30,429人という数を前に、大人の一員としての責任を感じます注2

この人数は、果たして「少ない」と言えるのでしょうか。

日本小児科学会の小児における新型コロナウイルス感染症(COVI-19)の現状と感染対策についての見解(2021年5月20日付)では、「年齢別人口分布で補正しても、小児感染者数は成人と比べ少ない」とされています。(日本小児科学会が言うので当然ですが)国内の主な専門家のスタンスはほぼ同じです。

10歳未満、10代は人口分布と比べても明らかに感染者数が少ないことが分かります。
ただし、日本国内でも感染の拡大に伴ってその割合が徐々に増えてきていることには注意が必要です。

これはもう言っちゃってよいことだと思いますが、子どものCOVID-19は成人に比べて数が少なく、軽症です。

表現は違いますが、同じ文脈の言説として以下のパターンもあります。
学校生活の細かい部分の安全性はいまだ不明
しかし、医学的に許容できる安全が見込まれている
それは感染しないという安全ではなく、
小児は 感染しづらく、
    拡大しづらく、
    重症化しづらい 
という意味

感染しにくく、重症化しにくく、感染を広げる中心ではない

これらのメッセージを発している方々は、いずれも現場で奮闘されている専門家です。内容は素人の私にとっても分かりやすく勉強になる部分が多いですし、日々のご活動には敬意を払っています。また、それぞれの信念や使命感から「過度な不安」を抱かせないよう、こうした表現を使われているのかもしれません。

割合を「相対的」に見れば、子どもが少ないのは確かです。しかし、ここまで増えている「絶対的」な感染者数を「少ない」と表現するのは、新型コロナのリスクに対して慎重派の保護者としては、違和感があります。

「子どもだから大丈夫」という認識を生み、リスクを軽視した行動(感染爆発時に子どもをテーマパークに送り出すなど)や、学校の感染対策の不備などにつながりかねません。入り口に差し掛かっているとみられる第5波、そしてその次の波でも、感染対策の内容が変わらなければ、大人も子どもも、大勢が感染することになります。

仮にこれから数十万人の子どもが感染してしまっても割合が逆転しなければ「大人と比べて少ない」ことに変わりありません。素人が専門家に対して物申すのもおこがましいのですが、一人の親としてさすがに看過できなくなってきました。

日本では、いつまでこうした論調が続くのでしょうか。

Long Covidのリスク


海外で問題となっている子どもの後遺症(Long Covid)について、国内では政府や専門家が言及することはこれまでほとんどなかったと捉えています。

しかし、多くが感染すれば、当初は無症状や軽症で終わっても、長い間未知の後遺症と向き合わなければならない子どもが一定数出てくることは世界では常識になりつつあります。

「知っていれば気を付けたのに」という悲劇を防ぐためにも、私は国内でも、より広く周知されるべきと考えます。


海外発の子どもの後遺症関連の情報には、以下のようなものがあります。

軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で自宅隔離となった若年成人(16歳〜30歳)の半数以上が、最初の感染の後の6か月に、継続的な呼吸困難、味覚と嗅覚の喪失、倦怠感、集中力や記憶力の低下などの症状を経験していることが、ノルウェーのベルゲンで行われた312人の患者集団の調査で明らかになった。
(中略)
著者たちは、入院しなかった若年患者の中に、感染後半年間という長い期間にわたって、場合によっては重くなる症状に苦しむ患者がいることに懸念を示しており、またCOVID-19患者に倦怠感の持続が見られる頻度は目立って高く、インフルエンザやエプスタイン・バーウイルス単核症といった他のよくある感染症よりも高いようだと指摘している。

後遺症が生じる理由は、専門家にもまだわからない。不活化されたウイルスたんぱく質が慢性的な炎症を引き起こすという説や、少量の生きたウイルスが残っているという説、あるいは新型コロナに感染、特に重症化したときの身体的なストレスで体が傷ついているのではないかという説などがある。

子どもの新型コロナ後遺症の原因としくみを解明するため、米国立衛生研究所(NIH)は「CARING for Children with COVID」という新しい研究プロジェクトを開始すると3月に発表した。

バイデン政権の新型コロナ対策チームで上級顧問を務めるアンドルー・スラビット氏の家族も、同じ問題を抱えている。同氏は18日のホワイトハウスでの会見で、「若く健康な」息子の1人が6カ月前に感染し、今でも息切れやインフルエンザのような症状に見舞われていると明かした。それがいつまで続くか家族には見当もつかないという。

オハイオ州の大学病院で小児感染症対策の幹部を務めるエイミー・エドワーズ氏は「この小児科領域はかなり見過ごされている」と指摘。「子どもの後遺症には、ブレインフォグ(脳の霧)や慢性疲労、熱が出たり下がったりする症状、奇妙な発疹などがある。長期の患者は病院に行かない。彼らは家で苦しんでいる」と述べた。

懸念されるのは、入院しなかった若年層(16歳から30歳)の患者も重い後遺症に苦しむ可能性があり、感染してから半年が過ぎても、集中力や記憶力の低下、息切れや倦怠感が出る場合があることだ。とりわけ学生は、そういった症状が出た場合、学習の妨げとなるかもしれない

デルタ株の感染拡大によって最も大きなリスクにさらされているのは、年齢のために接種が受けられない、または接種が可能になったばかりの子供たちだ。学校を中心に、デルタ株への感染者が急増することが懸念されている。

子供たちは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡や、感染したときの重症化の危険性が低いとされてきた。だが、一方では感染から何カ月たっても後遺症に悩まされるケースが相当数にのぼることが、これまでの調査で明らかになっている。

スタンフォード大学ルシール・パッカード小児病院のアロック・パテル小児科医は、このことを真剣に受け止める必要があると言う。「急性感染症である新型コロナウイルス自体で、子どもにはそれほど深刻な症状は出ませんが、新型コロナ後遺症は家族を大いに消耗・孤立化させ、たいへん恐ろしいものとなります」。

国内では子どもの後遺症リスクについてはこれまで光が当たってきておらず、最近になってワクチン接種の勧奨に絡めて多少言及されはじめた程度です。

重症化とMIS-Cのリスク


国内でも少数ながら子どもの後遺症に加え、重症例、そして川崎病のような病態を示す小児多系統炎症性症候群(MIS-C)(注4)が確認されはじめています。

重症例については、2021年4月は10歳未満の報道が続きましたし、2021年7月12日と30日には、以下のような痛ましい発表もありました。

都は、10歳未満の女児が感染後に重症化したことも明らかにした。都内で10歳未満の重症者が確認されるのは初めてという。女児に基礎疾患はないとみられ、医療機関で人工呼吸器を着けて治療を受けている。


その他の子どもの重症例

MIS-Cについては、以下の解説が分かりやすいです。

子どもはごく少数ですが、発熱のほかに下痢、発疹などが見られ、心臓の動きが悪くなることがあるようです。「小児多系統炎症性症候群」といわれる状態です。
(中略)
子どもは、肺に「ACE2受容体」があまり存在していません。この受容体は血管の壁にもあり、血管の拡張収縮に作用しています。子どもの場合は、肺よりも血管で新型コロナウイルスが増殖し、血管に炎症を起こしやすくなると考えられます。

血管は全身をめぐっているので、さまざまな臓器に影響を与える可能性がありますが、今のところ消化器症状が目立っています。

日本小児科学会はMIS-C診療のコンセンサス・ステートメントを公表し、備えています。

インドでも以下の報告がありました。


記事の中で医師が語っているように、感染爆発時に心配なのは「患者が急増した場合に若い患者を治療するのに十分なリソースと設備があるかどうか」という点です。


こうした子ども自身のリスクに限らず、家庭内感染による家族・親族の重症化・死亡リスクを考えると、子どもの感染者が「相対的」に少ないことを強調し続けることに、どのような意味があるのか疑問です。

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リスク・コミュニケーション


米国で重症例と向き合ってきた経験から、子どもの感染リスクについて(私から見て)より適切な表現で注意喚起を行っている小児科医も見られます。


こちらの方が事実を直視するために必要なメッセージとして共感できます。

今の傾向が続くと、年末までに、20歳未満の感染者が10万人を超えることは確実です。感染対策を一段と強化しなければ、15万人を超えてもおかしくありません。

後遺症、重症化、MIS-Cなどは、これまで海外発のニュースが多く、対岸の火事という感じでしたが、日本の子どもだけが無敵ということはあり得ません。

こうした状況で、日本小児科学会の新型コロナウイルス感染症対策ワーキンググループ委員を務める小児科医が繰り返す子どもにとっては基本的に風邪のウイルスという言葉は「過度な安心」につながりかねず、リスク・コミュニケーションとして問題があります。


一年にわたり様々なメディアを通じて広まっている子どもの「感染者は少ない」「かかっても風邪」「感染を広げる中心ではない」という専門家の言葉(注5)は大変重く、社会的影響も大きいです。

同医師が作成に関わったと見られる日本小児科学会による小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状という文書は、パンデミックでの学校再開とその後の文科省の「対面推し」の理論的支柱になっていると捉えています。

最近でも、新型コロナと子どもの感染リスク軽視の分かりやすい例として、オリンピックの学校連携観戦の動きがありました。

驚くべきことに、2021年6月には新型コロナ専門家有志の会ですら地元の自治体や保護者の同意を得た上で小学生を招くことも一つの選択肢と提言しています。「県境をまたいだ移動による人流・接触機会」抑制という大義は分かりますが、受け入れがたい内容です。

「子どもが生贄か」学校観戦は親の8割が猛反発 東京五輪1000人緊急アンケート

クラス単位の「バブル方式」をとっているシンガポールのように学校での厳格な感染対策を行っている国のジャーナリストなどの関係者が日本の実態を知ったら、国際的な批判につながりかねません。(子ども関連ではありませんが、シンガポール中国の選手団から、日本の感染対策の緩さがすでに指摘されています)

学校閉鎖 vs 対面授業


多くの専門家が指摘するように、昨年の全国一斉休校は科学的根拠が不明で過剰な対応でした。

休校が長引くと学びの機会が奪われ、子どもたちの心と体の健康に悪影響を及ぼす。実施には慎重な検討が必要だ

長期的な学校閉鎖が望ましくないという主張には同意です。

国内でも感染リスクの高い時期にオンライン学習と選択登校制でリスクを回避して、「子どもを守る」と「学びの保障」を両立している好事例があります。

このような事例に触れず、日々感染者が出ているなかでも「休校反対」とのみ主張し続けるのは無責任です。同様に、学校閉鎖や自主休校を提言する場合は、選択登校制やオンライン学習についても併せて言及してほしいです。

日本より感染を抑えているシンガポールでは完全なホーム・ベースド・ラーニング(HBL)に移行した2021年5月19日から2カ月弱を経て、同年7月6日から対面授業を再開しました。

学校再開時の様子

2021年5月16日時点で、100万人あたり新規感染者数(7日間移動平均)は日本が48.56、シンガポールが5.52でしたが、同年7月5日時点でそれぞれ12.58、1.88となっています。

 
この間シンガポールは迅速にオンライン学習に移行し、スムーズに対面授業へと戻したのに比べ、感染爆発地域における休校やオンライン学習をめぐる日本の自治体の準備不足と混乱ぶりは記憶に新しいところです。学校の感染対策が不十分だったのか、結果として、多くの子どもが感染しています。

学校の感染対策強化が急務


海外では学校閉鎖とオンライン学習が長期化している国もあり、最近WHOが「学校の再開は待ったなし」というリリースを出しました。

こちらでは「少ない」という表現こそ使っていませんが、おおむね日本小児科学会や国内の専門家と同じような見解を示しています。

  • 世界的に(特に小学生以下の)子どもの感染者の割合は低い。
  • 大人に比べて子どもの症状は軽い傾向にある。
  • 学校が周辺地域の感染の原動力になることはない。
  • 韓国の研究によれば感染した子どもがウイルスを拡散する可能性は低い。

但し、ここで触れている韓国の研究の原典には学校閉鎖の効果や子どもが地域感染に果たす役割について上記見解と矛盾するような記述もみられます注6

また、これら論点は、後述するように研究者の間で論争になっています。

むしろこのリリースの大事なポイントは、しっかりとした対策を講じることで学校での感染リスクは管理可能であるというメッセージです。

パンデミック下で学校を開くのであれば「最低限これくらいは対策するように」というガイダンスを改めて周知する狙いがあったと捉えています。

このガイダンスは2020年9月に公開されたもので、最新の研究や事例を十分反映していないきらいもありますが体系的にまとめられています。


日本でも子どもが日々感染しているため、学校の感染対策のさらなる強化が必要です。

学校のリスクをめぐる論争


長期にわたって学校閉鎖が続いていた欧米では、学校の再開是非と感染対策について研究者の間で活発な議論や提言が見られます。


ロンドン大学クイーン・メアリー校の疫学者で機械学習の専門家であるDeepti Gurdasani氏は新型コロナと子どものリスクに関する慎重派の論客として、精力的に研究と提言を続けています。


デルタ株による感染拡大を見ながらも、感染者に比べると入院患者や死者の増加が緩やかでワクチン接種拡大の効果が表れているとされている英国では、ボリス・ジョンソン首相が「ウイルスと共存することを学び始めている」との声明を出し、政府としてイングランドのロックダウン緩和第4段階への移行を2021年7月19日に実行すると明らかにしました。

これを受け、Gurdasani氏が筆頭となり、Hyde氏を含む複数の科学者が連名で、Lancet誌に「集団感染は選択肢ではない:子どもを守るためにもっと努力を」と題する短報を投稿しました。

「政府はこの非倫理的で非論理的な戦略を再考し、子どもたちを含む国民を守るために早急な対策を講じる必要がある」「私たちは、政府が危険かつ非倫理的な実験に着手していると考えており、(リスク)軽減策を放棄する計画を中止するよう求める」という内容から緊急提言といった趣です。

子ども関連で注目すべき同短報の内容は以下の通りです。

・無制限の感染は、すでに大きな被害を受けているワクチン未接種の子どもや若者に、より深刻な影響を与える。慢性的な健康問題や障害を抱える世代を生み出す危険性があり、その影響は数十年にわたって続く。
学校や子どもの間で高い感染率が続くと、教育に大きな支障をきたす。学校の厳格な感染防止策に加えて、地域社会の感染を最小限に抑え、最終的には子どもたちがワクチンを接種することで安全に学校に通えるようになる。
・夏に感染を継続させると、学校が再開したときに感染拡大が加速する可能性がある。
・青少年のワクチン接種率が高くなり、適切な換気対策(CO2モニターや空気清浄機への投資)と距離確保(クラスの人数縮小など)が学校で実施されるまでは完全な再開は遅らせるべき。

ワクチンは副反応リスクを懸念する方も多く、子どもへの接種については議論が分かれるでしょう。一方、ここで述べられている内容の多くは、日本にも当てはまると捉えています。

政府への忖度なく、エビデンスに基づき、真の意味で「子どもを守る」ために直言する科学コミュニティがあることに、彼我の差を見る思いです。(著者には、英政府緊急時科学諮問グループ(SAGE)に属する科学者も複数含まれています)

通説の検証


Hyde氏が、自身の研究や提言を紹介する2021年5月14日付のブログで重要なメッセージを発しています。一部を意訳し、引用します。

子どもとCOVID-19に関する古くからの俗説が再燃しているのを目にします。すなわち、子どもはウイルスに感染しづらく、また感染させづらいというものです。

これらの主張は、どちらも正しくありません。

子どもも大人も同じように感染しやすく、感染すると、子どもも同じようにウイルスを伝播する可能性があるのです。

昨年、私はこの問題に関連して、学校をより安全にするために必要なことをまとめた提言を書きました。
(中略)
詳細な推奨事項は、Lancet誌に掲載されたこちらの短報に記載しています。

さて、なぜ他の人ではなく、私の意見を信用すべきなのかという疑問を持たれるかもしれません。それに対する私の答えは、一人に頼るべきではないということであり、この問題について、もっと広くお調べになることを勧めています。私の研究が科学的な批判を受けたこともありますが、それに対して、私がどのように答えたかをお知りになりたい場合は、この記事をご覧ください。

それにしても、どうしてこんなに意見が分かれるのか不思議に思われるかもしれません。それは、科学的なデータの収集や解釈において、いくつかの単純なミスがあったからです。この記事では、なぜこのような問題が生じたのか、また今後よりよい研究を設計するには、どうすればよいのかを解説しています。

リンク先の論考はいずれも説得力がありますので、ご関心のある方はご一読ください。

本稿では、なかでも特に重要な2つの論文の要点を紹介します(素人による意訳であり、専門用語の誤りなどを含む可能性があります。正確な内容については原典をご確認ください)。

一つ目の論文は、Hyde氏による、「子どもと大人の二次感染率の差をもたらすバイアスの可能性」というタイトルのClinical Infectious Diseases誌に掲載された論文です。


  • 大人より子どもの二次感染率が低いとされているが、これは生物学的な感受性の違いではなく、小児の検査と曝露が少ないことによる。
  • 子どもは大人の2倍の確率で無症状であり、子どもや若者では無症状感染が5割に上ることもあるため、症状に基づく検査では子どもの症例を見逃す場合がある。
  • 子どもは大人よりも検査を受けておらず、これが研究のバイアスの差を生む重要な要因となる。
  • また、子どもは大人に比べて検出可能な期間が短い可能性がある。ある調査では、PCR検査で子どもの感染者を特定できる期間はわずか2日間だった。
  • 別の調査では、PCR検査と血清(抗体)検査で検出された症例の比率が、全体では1:3だったのに対し、若者では1:7だった。
  • ある報告では、感染した夫婦の子どもが、PCR検査では繰り返し陰性となったが、抗体が検出された。
  • これらの事実は、子どもは大人より感染しにくい、というシステマティックレビューとメタアナリシスの結論に疑問を投げかける。
  • 学校閉鎖されている場合、大人が子どもよりも先行感染者となる可能性が高く、それは必ずしも子どもの方が生物学的な感受性が低いということを意味しない。
  • パンデミックの初期に子どもへの検査が制限されてきたことから、実際よりも感染しにくいという認識につながった。
  • その後、検査対象は拡大されたが、子どもは検査の対象になる典型的な症状を示さないことがある。
  • 一部の地域では、重症でない限り、子どもは未だ定期検査を受けていない。
  • 初期データは学校が閉鎖されている期間のものだったが、現在は子どもが感染者の多くを占めている(イングランドでは、いまや子どもがどの年齢層よりも感染し、大人より家庭内にウイルスを持ち込み、家族を感染させている)。
  • 当初考えられていたよりも子どもは感染しやすく、地域での感染に重要な役割を果たしている可能性がある。

抗体検査については、2021年7月6日に、カナダで1万人以上が参加した大規模な研究結果が発表されています。同研究では「若い年齢層、特に子供と青年はSARS-CoV-2の感染率が高かった」とした上で、「多くのカナダ人が抗体が陽性であったにもかかわらず、自分が感染していることを知らなかった。気づかずに他の人に感染させてしまった可能性がある」と指摘しています(注7)。


検査については、日本小児科学会は「症状が軽症で、その後の同居家族以外の人との接触が避けられる場合は、検査診断は必ずしも必要ない」としていますので上記論文で指摘されているバイアスは、日本でも大いにありそうです。
 

また、日本小児科学会のレジストリ調査によれば家庭内では大人から子どもへの感染が多数を占めるとされていますが、子どもは無症状であることが多いということも分かっているのですから、症状に基づく検査による見逃しの影響について、より慎重に精査する必要があるのではないでしょうか。

二つ目の論文は、以前の投稿でも付録部分(学校の感染対策)を紹介した、Gurdasani氏とHyde氏らによる、「学校再開によるCOVID-19パンデミックの加速を抑制するための強力な対応策の必要性」というタイトルのLancet誌に掲載された短報です。

  • 学校閉鎖されていなくても、感染率が高い地域では中学の生徒の22%が自主休校していた。
  • 学校は地域感染に寄与しておらず、COVID-19による子どものリスクは非常に小さいという主張により、学校での対策の優先順位が低くなっている。
  • 英国国家統計局のデータによると、2020年のクリスマス休暇前に2~16歳の子どもの感染率が、他のすべての年齢層を上回っていた。
  • 2020年11月のロックダウン時(学校は開放)にアルファ株が流行した地域で感染者が増加したことを踏まえると、十分な対策を講じずに学校を開放することで、ほぼすべてのシナリオで実効再生産数が1を超える可能性がある。
  • 2021年2月は生徒が少ない時期にもかかわらず、先生の感染リスクは高かった。
  • Long Covidに関する調査では、2~10歳の13%、12~16歳の15%が、陽性になってから5週間後に少なくとも1つの持続的な症状を有していた。
  • 地域の感染率が高い状況で適切な感染対策を取らずに学校を再開すると、多くの子どもから教育や社会的交流の機会を奪い、不平等を拡大させる危険性がある。

休校による感染リスク回避の効果については、日本でも以下のニュースがありました。

糸数公医療技監は17日、休校措置について「今週も数字を見るが、(休校から)最初の1週間でもかなり収まっており、感染拡大を抑える効果はあったのではないか」と説明した。

日本小児科学会による小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状は2020年11月時点で更新が止まっています。その後、多くの子どもが感染し、一部の自治体を除くと、オンライン学習も受けられないまま自主休校を余儀なくされている子どもが大勢います。8カ月以上も未更新のままにせず、世界の「新たな知見」を踏まえ、速やかに改訂すべきです。

特に以下の記述は、現時点でも本当に妥当か、再検証する必要があります。

  • 学校や保育所におけるクラスターは起こっているが、社会全体から見ると多くなく、小児COVID-19症例の多くは家族からの感染である。
  • 小児は成人と比べて感染しにくい可能性が示唆された。
  • 海外の数理モデリング研究や系統的レビューでは、学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しい可能性が指摘されている。

私は素人ですので渉猟できる論文も限られており、エビデンスの強度を判断するだけの知識もありません。

しかし、ここで紹介した2つの論考は第一線で活躍している疫学者によるもので、その研究や提言はLancet誌をはじめとする医学誌、The Guardian、BBCなど影響力のある媒体で紹介されており、少なくとも無視すべきではありません(注8)。

子どもと新型コロナのリスクについて発言されている国内の専門家は、自説や政府の政策に沿った研究のみをチェリー・ピッキングしているのではという疑念を持たれないためにも、現実を真摯に受け止め、多角的な視点の研究を踏まえた知見と提言へと、アップデートしてほしいです。

まとめ


  • 絶対数で見ればすでに子どもの感染者は多い。
  • 全体に占める割合としては子どもの感染者、クラスターともに増加傾向にある。
  • 研究のバイアスがあるため子どもの感染者はもっと多いと考えられ、子どもは感染しづらく、拡大しづらいという通説は科学的に誤りの可能性がある。
  • 重症化しづらいのは確かだが、感染者が増えれば一定割合で子どもも重症化し、死亡することはある。
  • 当初は軽症でもMIS-C、Long Covidのリスクがあり油断はできない。

2021年5月の第4波のさなかに文科省が公開したビデオに対しては、賛否両論あり、プチ炎上状態となりました(否が多いようですが…)。

市民の協力が不可欠な感染症対策では当局や専門家への信頼が重要と言われます。しかし、ソーシャルメディア上の反応を見ると、新型コロナと子どもをめぐるリスク・コミュニケーションがうまく行っているとは思えません。


これから多くの子どもが感染し、後遺症を含めた健康被害が大きな社会問題となる可能性があります。

個人への攻撃や責任転嫁に繋がることは避けねばなりませんが、政策プロセスとして、日本小児科学会および専門家の意見がどう影響し、どのような結果につながったのか、文科省は第三者の目も入れて透明性のある形で検証し、今後に活かしてほしいです。


Twitterでも情報発信しています。宜しければ、ご意見お寄せください。


注1
厚労省による国内発生動向の分析資料によれば、2020年5月3日時点の感染者数は以下の通りでした。

  • 全体14,895人
  • 10歳未満246人(1.7%)
  • 10代352人(2.4%)

なお、2021年7月27日時点の厚労省のサイト「性別・年代別新規陽性者数(週別)」で直近1週間のデータを見ると、20歳未満が15.3%に上っているのも気になります。

  • 全体35,704人
  • 10歳未満1,600人(4.5%)
  • 10代3,864人(10.8%)


神奈川県と藤沢市の同期間における傾向は以下の通りです。

まず、神奈川県のデータによれば、2021年7月27日時点で、全体に占める20歳未満の割合は11.6%です。

  • 全体78,137人
  • 10歳未満3,043人(3.9%)
  • 10代6,028人(7.7%)


2020年5月3日時点は同3.2%でしたので、1年強で3.6倍になっています。

次に、藤沢市のデータによれば、同時点で、全体に占める20歳未満の割合は11.9%です。


  • 全体3,222人
  • 10歳未満136人(4.2%)
  • 10代248人(7.7%)


2020年5月3日時点は同3.7%でしたので、こちらも1年強で3.2倍になっています。


注2:文科省による2021年7月30日の発表では2020年6月から2021年の6月末までの一年間で児童生徒29,118人および幼児1,016人の感染の報告があったとされています。

この発表は高校までの学校・園からの報告をベースとした「児童生徒」数ですので、大学生や、学校、園に通っていない子どもは含まないようです。しかし、厚労省の2021年6月23日時点のデータでは10歳未満26,361人、10代58,545人の合計84,906人ですから2.8倍も乖離があります。文科省が実態をきちんと把握できているのか疑問です。

また、文科省による2021年6月30日の発表では「これまで児童生徒の重症者は報告されていませんでしたが、今回のまとめで初めて10代で1人重症者が報告されました」となっているのも気になります。既に2021年5月初旬に10歳未満の重症化事例が自治体から報告されていますし、東京iCDCが2021年2月に公表したデータによれば2020年12月28日時点で全国の入院時重症例として、0歳代116人、10代33人とあります。

当初は無症状・軽症でもその後症状が悪化することはありますので、感染時点で学校が把握できていない重症例があり、文科省への報告から漏れているのかもしれません。

文科省の発表数字は、実態を反映しておらず、学校の感染リスクを過小評価することにつながっていると懸念しています。

注3
:この資料は、素人目線でもいくつか疑問があります。

  1. MIS-Cや後遺症など国内でも発生している深刻なリスクに触れていない。
  2. 合唱コンクールを後押しする一方で、空気を介した感染リスクの注意喚起が弱い。
  3. 自説を補強する研究や事実でまとめて(確証バイアスに陥って)いる印象が強い。

この資料を作成した医師は、屋内での合唱コンクールを、マスク無しで行うよう学校を指導していたようです。


シンガポールでは「マスクを着用しない歌、管楽器・金管楽器の演奏」、「マスクを着用した歌や発声活動」も禁止されているように、世界では合唱のリスクが高いことは常識です。国内でも複数の集団感染事例がありました。


日本小児科学会の新型コロナウイルス感染症対策ワーキンググループの委員も務める医師がこのようなハイリスク活動を後押ししているのは驚きです。

注4
:同文書には、以下の文言が見られます。

この問題に関しては、欧米の報道以来、各報道機関、メディアも注目を続けております。当該患者様の個人情報保護の観点と、報道内容によって、お子さんを持つ一般家庭に過度の不安を与えない様、現時点で、一般社会への積極的な広報は控えておりますので、その点ご理解いただける様お願いいたします。
COVID-19 に続発する多系統炎症性症候群(MIS-C)の発生について


個人情報保護は当然ですが「過度の不安を与えない」との配慮は、私にはエリートパニックのように見えます。良い情報も悪い情報も早く公開する、というリスク・コミュニケーションの原則に立てば、情報がすぐに伝播するソーシャルメディア時代では、むしろ悪手ではないでしょうか。

実際、Twitterでは情報が出回っており、隠蔽ではないかとの憶測や疑念を生んでしまっています。リスク回避・軽減行動につながる情報はタイムリーに広報すべきと考えます。

注5
:子どもの感染者や学校クラスターの増加という現実を踏まえ、最近は以下のような見解も示されています。


注6
:この研究で気になる記述は、以下の通りです。

  • 中国の武漢と上海で行われた調査では、学校閉鎖と社会的距離により、学齢期の子どもの接触者における感染率が大幅に減少した。
  • 中国の深圳で最近子どもの感染者の割合が2%から13%に増加したとの報告があり、学校閉鎖の重要性が示唆される。
  • 公衆衛生上の学校閉鎖の意義を評価するには血清学的研究など、さらなるエビデンスが必要である 。
  • この研究では、すべての無症状者を検知できていないため症例数が過小評価されている可能性がある。
  • 学校再開後には発病率が高まることで、子どもは地域感染に貢献しうる。
  • 学校再開後に社会的距離が縮まるなかで、家庭内感染の役割が明らかになったことは、公衆衛生政策を進めるうえで一刻を争う疫学調査の必要性を示している。

こうして見ると、WHOはやや強引に今回のリリースの文脈に合う箇所のみを引用している感もあります。

注7
:Lancet感染症誌で紹介された各国の抗体保有状況に関する調査サイトを見ると、日本のデータも掲載されていますが、カナダほど大規模な調査は行われていないようです。


国内外で進む子どもへのワクチン接種の動きについては以下の意見があります。同感です。私自身はワクチン接種しましたが、子どもについては慎重に判断したいです。子どもへのワクチン接種をスムーズに進めるためにも、(費用対効果や研究デザインは慎重に行う必要がありますが)抗体検査による子どもの感染実態把握は意義があると考えます。


注8:国立感染症研究所の感染症疫学センターの論文紹介ページを除いて、寡聞にして国内の専門家やメディアがこれらの研究に触れた例を知りません。

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