「ガラパゴス」スイスチーズモデル考

ガラパゴス?スイス?どこのチーズ?と、混乱するようなタイトルをつけていること、まずお詫びいたします。

Twitterで話題になっている峰宗太郎氏によるスイスチーズモデルを表すのに、ガラパゴス化というビジネス用語が頭に浮かびます。


はじめに


ガラパゴス化は、否定的にも肯定的にも使われている用語ですが、本稿では「日本で独自の進化を遂げたモデルが世界標準からかけ離れてしまう」という意味合いで用います。


私は、Twitterで見かけた峰氏のスイスチーズモデルの図について、第三者ながら、いくつか疑問が湧きましたので、気軽な気持ちで、以下の問いかけを行いました。


私のツイートを見たインフルエンサーが峰氏に対して別の観点で議論を投げかけたり、私のツイートにリプライした方に峰氏が反応したりしたことで、想定外に話が広がっています。

このツイートがまとめサイトに転載されたこともあり、いわゆる「バズる」(炎上している?)ことになりました。なお、現時点で私の指摘に対する峰氏からの返答はありません。

峰氏の図をめぐっては、Twitter上で主に以下の指摘が見られます。

  • 先行研究者への参照がない(クレジットの話)
  • 原作者が求める利用条件に沿っていない(研究者のモラルと著作権の話)
  • 改変が妥当でない(内容の話)

私の当初の指摘のポイントは主に1と2にあり、3は感想にすぎません。先行研究者の図との違いを指摘している以外は、むしろ三密を加えた点については工夫を評価しています。2は、具体的にはクリエイティブ・コモンズの利用条件を指し、日本の著作権法を前提としていますが、私の指摘は著作権よりも、研究者としてのモラルの観点で、問題があるのではという趣旨でした。後述するように、私が原作者と捉えた研究者は、パブリックドメイン(CC0)に近い、もっとも緩い条件を適用しているからです。つまり私の指摘は、ほぼ1に集約されます。

今見られる、改ざん、盗用といった批判は、峰氏が1の対応をとっていれば防げたはずです。原作者は、図をわざわざオープンアクセスにして、クレジットをつけて改変した箇所を明記しておけば、むしろ「改変していいよ」という姿勢を表明しているのですから。

目的


今回、第三者としては、当事者に比較的近い立ち位置でこの話題に関わることになりましたので、これまでTwitterで個別にやり取りをしたり、見解を発信したりしてきました。

しかし、私のネットでの活動は、新型コロナと子どもと学校のリスクについての問題提起や提言を本筋としています。

そのため、峰氏が公開したスイスチーズモデルの図についての議論はここに考えをまとめ、私としては一区切りにしたいです。

峰氏を個人攻撃する意図はありませんので、本稿を引用する形で、私の指摘(図の原典表記問題)以外の論点で、同氏や同氏が関わる「こびナビ」の活動全般について批判や誹謗中傷などを行うことは、避けていただきたいです(私がコントロールできることではありませんが…)。

「こびナビ」関連で言えば、私はワクチンに反対の立場ではなく、むしろ峰氏のワクチンについての啓発活動には敬意を払っています(ただ、私が主に参照してきたのは宮坂昌之氏の発信であり、峰氏や「こびナビ」メンバーによるメッセージの詳細は把握していません)。また、私自身、同世代の中では早いタイミングで2回の接種を終えています。

ですから、もし「反ワクチン派が嫌がらせをしている」といった色眼鏡で今回の騒動を見ている方がいたとしたら、私に関してはそれは当てはまりません。

ワクチンについては既知のリスクは踏まえつつ、子どもを守るうえで、以下のコクーン戦略という考え方に共感し、慎重に接種の判断をしています。


また、峰氏の積極的な情報発信については、「コロナで気分が沈んでいる時に大変励まして頂きました」との声を、同氏のフォロワーさんから伺っています。

専門家が、一般の方とこのような形でフラットにやり取りを続けている活動は意義あるものです。今回の件をきっかけに覗いた同氏のInstagramにある(特にセミの)イラストは大変魅力的で、才能豊かな方なのだと捉えています。

Twitterでは、今回の問題提起を契機として党派性の強い非難をする方も見られますし、それ以外にも基本的な経緯や事実をおさえずに、(私から見て)論点がずれた擁護や批判も見られます(注1)。

この投稿によって今のカオスな状況が改善され、良い方向に向かえばと願っています。

提案


詳細に入る前に、先に結論として、私の提案をまとめておきます。

  • 峰氏は、新型コロナ文脈でのスイスチーズモデルのデファクトスタンダードといえるIan Mackay氏のインフォグラフィックに敬意を払い、「研究者のマナー」として同氏が求めるクリエイティブ・コモンズの条件に沿った対応を速やかにとる。
  • 私たち第三者は、峰氏が上記の対応を取る場合は過去の行為を一方的に叩いたり、経緯や事実を踏まえずに論点を広げて非難したりすることは避け、内容に関する「建設的なフィードバック」を提供する。

経緯


ここで、2020年10月まで時間を巻き戻して、今に至る経緯を振り返ります。

情報セキュリティの観点で、同様の概念があることは把握していましたが、私が新型コロナ文脈でのスイスチーズモデルについて認識したのは、産業医として、現場経験に基づく有益な新型コロナ関連情報を発信している辻氏のツイートだったと記憶しています。


オーストラリア クイーンズランド大学のウイルス学者、Ian Mackay氏によるインフォグラフィックによって一般に広く知られるようになった新型コロナウイルス文脈のスイスチーズモデルですが、話題になった2020年10月時点では、スライスが7枚しかありませんでした。(出典も現在とは異なり、着想を得た方の名前になっています)

その後、Mackay氏のインフォグラフィックは、ネットを通じた世界中の集合知を反映しつつ発展を続けています。若干盛り込みすぎの感もあり、今後、スライスがどこまで増殖するのだろう…と、いらない心配をしてしまうほどです。


「建設的なフィードバックを歓迎します」


2021年6月に以下の投稿でスイスチーズモデルに則って文科省の衛生管理マニュアルを点検するという試みを行った際に、改めてMackay氏のインフォグラフィックの成り立ちや広がりについて調べました。



出典:Mackay, Ian M. (2020): The Swiss Cheese Respiratory Virus Defence. figshare. Figure. https://doi.org/10.6084/m9.figshare.13082618.v23 (CC BY 4.0)


前提

オープンアクセス


Mackay氏が以下のブログで紹介している通り、このインフォグラフィックは、英国マンチェンスター大学の心理学者であるJames Reason氏が1990年に提唱したリスク管理のモデルを由来としています。


2020年12月には、ニューヨーク・タイムズの記事で紹介され、より広く知られるようになりました 。

現在は、バージョン4までアップデートされ、クリエイティブ・コモンズのライセンス条件に従えば、誰でも共有・翻案(改変)できる形で日本語を含む翻訳版が公開されています。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、「著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示を手軽に行えるようにするための様々なレベルのライセンス」とされています。

ここで大切なのは、「再利用の促進を目的」としている点です。Mackay氏がわざわざクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを適用したのは作成したインフォグラフィックを独占するためではなく、むしろ広く再利用されることを意図していることが分かります。

ちなみに、Mackay氏は、クリエイティブ・コモンズの条件としては最も緩い表示 4.0 国際 (CC BY 4.0)を採用しています。CC BY 4.0とは、一定条件に従う限り「共有」と「翻案」が自由となっています。その条件は「表示」のみで、そこでは「適切なクレジットを表示し、ライセンスへのリンクを提供し、変更があったらその旨を示さなければなりません」と説明されています。

デファクトスタンダード


最近の世界の研究者、ジャーナリスト、国際・行政機関などによる新型コロナ文脈でのスイスチーズモデルに関する論考や図は、Mackay氏の名前を挙げるか、CCの条件に沿っていることがほとんどです(注2)。

例えば、以下の例が挙げられます。

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イギリス領ガーンジー政府公式ツイッター↓

…キリがないため、このくらいにします。

次に、象徴的なものを、いくつか詳しく紹介します。

ニュージーランドの企業・技術革新・雇用省(MBIE)による管理隔離・検疫のためのスイスチーズモデルは空港の検疫のために作成されたもののようで、Mackay氏のモデルでは「社会の責任」となっている部分が「管理隔離の責任」となっています。まさにクリエイティブ・コモンズの条件に沿った翻案(改変)の好例です。

また、Telegraphの記事では結核撲滅のためのスイス・チーズ・モデルとして、「Ian Mackay博士の許可を得て、結核のために翻案」との原典表記をつけています。

Covid-19を阻止するためには様々な分野での介入が必要であることを世間に訴えるために、科学者たちがCovid-19の「スイスチーズ」モデルを開発し、複数の言語に翻訳しました。

ウイルス学者のIan Mackay氏が開発したこのモデルは、スイスチーズの大きな穴のイメージを用いて、Covid-19を阻止するには単一の防御層だけでは不十分であることを示しています。

同じくニュージーランド オークランド大学の微生物学者であるSiouxsie Wiles氏は、以下の図を公開しています。ニュージーランドらしく(?)国境管理および到着時の隔離という、政府の対策が真っ先に置かれています(Mackay氏は、ブログで「レイヤーの順番が重要なのではなく、レイヤーのパッケージ=リスク軽減のための介入が重要」としていますが)。

アニメーションで、とても分かりやすく表現されています(動画をクリックしてみてください)。余談ですが、スイスのチーズのすべてに穴が開いているわけではないため、「エメンタールチーズモデル」と呼ぶこだわりも見せています。


なお、別の図ですが、Wiles氏の同様の行為について、クリエイティブ・コモンズの記事で、以下のように評価されています。

12カ国の政府の科学アドバイザーが、出版社に対し、COVID−19に関する科学研究とそのデータをオープンアクセスにすることを求める公開書簡を発表した。そこには「現状の緊急性を考慮すると、科学者と市民が可能な限り早く研究結果にアクセスできることが特に重要である」と書かれている。
(中略)
個々の科学者も、メディアと共同で、複雑な科学的コンセプトを解説する図をオープンライセンスのもと公開し始めている。たとえば感染症の専門家であるSiouxsie Wiles博士が、どうすれば「感染のピークを抑えられるか」を説明したこのGIF画像はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際(CC BY-SA 4.0)のもと公開された。

さらに、以下のBBCニュースの記事では「スイスチーズモデルをパンデミックに関して初めて使用したオーストラリアのウイルス学者Ian Mackay氏は、実際には私たちの行動によってチーズの穴は常に開いたり閉じたりし、また穴の場所が移動したりもすると述べています」という記述が見られます。加えて、以下の文言が文末に添えられています(この記事もビジュアルが工夫されているため、興味がある方はリンク先を覗いてみてください)。

「スイスチーズの呼吸器系パンデミック防御モデル」は、オーストラリア クイーンズランド大学のウイルス学者であるIan M Mackay氏が初めて作成し、20数カ国の言語に翻訳されています。このインフォグラフィックは、認知心理学者であり英国マンチェスター大学の名誉教授であるJames T Reasonが考案した概念に基づいています。この概念は科学界でリスクを軽減するための議論に使用されています。

上述のMackay氏のブログで、氏自身がSketchplanations氏の図を参考にした(その出典はCleveland Clinicの資料)としていますし、注2で紹介した通り、もっと早いタイミングで、国内外で、スイスチーズモデルを使った新型コロナ文脈の色々な図が作成されています。

ですから、図になっていないものや、新型コロナより前のパンデミック文脈での適用を考えれば、「初めて」という表現は誤解を招くかもしれません(もちろん、Mackay氏が公開したインフォグラフィックを指すのであれば正確です)。

重要なのは、現在では、国際的にはMackay氏のインフォグラフィックが事実上の標準として捉えられているという点でしょう(注3)。

長くなりましたが、議論の前提として、以下を踏まえることが重要です。

  • Mackay氏は、自身の作成したインフォグラフィックに、クリエイティブ・コモンズでもっとも緩い条件(CC BY 4.0)を適用し、オープンアクセス(誰もが自由に共有し、二次利用できるよう)にしている。
  • Mackay氏のインフォグラフィックは、世界の研究者やジャーナリストのコミュニティにおいて、新型コロナ文脈でのスイスチーズモデルとしてはデファクトスタンダードに近い地位を確立している。

極端な例では、「『いらすとや』でも去年スイスチーズモデルのイラスト出しているのに」というコメントもありましたが、そこまでではなくても、この文脈を踏まえない擁護・批判は、いずれも的外れに見えます。

(内容に関する議論は別として)峰氏がクレジットさえつければ、改変して共有しても何も問題ないはずだからです。

問題点


「日本で独自の進化を遂げたモデルが世界標準からかけ離れる」恐れがあるため、本稿では峰氏が提示した図を「ガラパゴス」スイスチーズモデルと呼びます。

峰氏の図に対する3つの観点からの批判について、私見を述べます。

先行研究者への参照


今回の対象は論文ではないという擁護も見られますが、この点については議論の余地はないでしょう。注1で示した通り峰氏は以前よりMackay氏の図を紹介しているため、参考にしたことは明らかです。


このうように、当初は「単独の参考があったわけではない」と、あまり必要性を認めていなかった峰氏自身、最近は以下のように反省しています。「過ちては改むるに憚ること勿れ」ということわざが頭に浮かびます。先行研究者へのクレジット追加はすぐにでも対応すべきです。


利用条件への準拠

研究者のモラル


この点については、インペリアル・カレッジ・ロンドンの免疫学者である小野昌弘氏の指摘
が正鵠を射ています。世界の研究者の受け止め方も、これに近いのではないでしょうか。


小野氏も指摘していますが、峰氏は今回作図するにあたりCC BY-NC-ND 4.0という、Mackay氏の利用条件よりも厳しい条件を適用しているようです(NDは「改変禁止」。NOと誤植しているようですが…)。


仮に峰氏がMackay氏の求めるCC BY 4.0の条件に沿っていれば、自身の図にNDを追加することはできます。


しかし、クリエイティブ・コモンズの記事によれば学術文脈でのコンテンツをNDで共有することは推奨されていないようです。

Mackay氏を含む世界中の研究者が、新型コロナ禍におけるオープンアクセスの重要性を踏まえて実践しているなかでは、まさに「尊敬できる行為ではない」でしょう。


NDで共有することで、峰氏の図をもとにして国内の研究者や有志が改変版を作成・公開することができないなら、ガラパゴス内での「独自の進化」ですら、難しくなってしまわないでしょうか。

当初の指摘のほとんどは尽くせましたので、ここで本稿を追えても良いのですが、せっかくですので、残りの論点にも触れてみます。

著作権


私は法律の専門家ではないため、著作権に関する詳細な評価は避けたいと思います。ただ、ここではMackay氏と峰氏の図の類似性、当事者としてのMackay氏がどのようなアクションをとるかが重要なポイントのようです。

この二つについて、補足するにとどめます。

類似性については、小野氏が使った「極度に類似」という形容に同意です。Mackay氏の図のバージョンアップの経緯を見れば、同氏のインフォグラフィックの最新版(注4)に、様々な意味が込められていることが分かります。峰氏の図との類似点は多いです。

念のため、Mackay氏のバージョン4との類似点を挙げておきます。

  • 共通する対策(スライス)が10以上ある
  • 個人レベルの対策から社会レベルの対策へと拡張している(注5
  • 個人→社会(濃→淡)の順に並べている
  • 「誤情報ネズミ」への注意喚起がある

私の当初のツイートが想像を超えて拡散したことで、そこに含まれていたMackay氏は日本語のツイートが多くて翻訳しきれず、若干困惑している様子でした。そこで、不都合であればツイートを削除すると申し出たところ「大丈夫。そのままにしておいて」とのことでした。

当事者としてのMackay氏は今のところ静観されていますが、私と同様の指摘をした方に以下のように返答しています。

「それはオープンアクセスライセンスです…」

Mackay氏が示したリンク先は冒頭で紹介したブログです。


繰り返しになりますが、そこには、「CC BY 4.0オープンアクセスライセンスで図の共有と翻案を可能にしており、出典のクレジットと改変箇所の表示のみを求めます」と明記されています。

間接的ではありますが、Mackay氏の意志は明確に示されているのではないでしょうか?

改変の妥当性


最後に、改変の内容については、以下のような建設的な問題提起がなされています。その後やり取りが数回あったようですが、先ほど挙げた小野氏と併せて、カップ氏も、なぜか峰氏からブロックされてしまったようです。


次は、ちょっと私には理解できない反応です。


Mackay氏がCCライセンスを通じて出典と改変点の明記を求めているのは、本来、こうした比較や議論を促すためではないでしょうか。

私は峰氏の図のスライスの順番には異論がありますが、ワクチンを個人と社会の責任の双方にかぶせているのは賛同できます。Mackay氏の最新版(作成途中?)でも、「社会の責任」は「社会と個人の責任」となっています。

また、峰氏が「個人の責任」の中に「三密」の概念を入れているのも日本らしい「改良」と評価できます(ただ、「個人の責任」は「三密」に忠実に沿って「密閉空間を避ける」などとし、「社会の責任」の方には、換気と空気清浄を残すほうが良いです。また、峰氏の図の英語版では、3Cと表現しながら、3密の頭文字がCになっていないのも惜しいです)。

英語が堪能な峰氏なら、こうした改良点をMackay氏に提案することもできるはずです。

空気を介した感染リスクへの対策の重要性が注目されているなか、空気清浄を削除するのは悪手です。検査も、Mackay氏の図にある「迅速かつ高感度」という部分が重要なニュアンスであるはずです。

こうした「改悪」は、日本の感染対策自体をガラパゴス化して「世界標準からかけ離れた」ものにする恐れがあるため、一部の方から「劣化版」と評されても仕方ない面があります。

おわりに


Mackay氏は、2020年11月に以下のブログ記事を公開しています。

各国の政府は、安全な学校再開、慎重に制限を緩和する方法、パンデミックの様々な側面に関する多言語・多層的なコミュニケーションと教育の重要性、エアロゾルの専門家の指摘に応えて「飛沫」から「空気感染」へと教義を変更するといった事項に関して、成功を収めている国から学ぶことができませんでした。

素人の私には、Mackay氏のブログの技術的な内容の妥当性を評価するほどの専門性はありません。また、峰氏をフォローしてこなかったため確たることは言えませんが、どうも検査や「空気感染」に関して、Mackay氏と峰氏の主張には、相いれないところがあるようです。

これは邪推になりますが、仮に主張が異なる研究者だからクレジットをつけないということだとしたら、モラルに反していると言わざるを得ません。

峰氏はこのような憶測を生まないためにも、この騒動を奇貨とし、原典表記を追加した上で改めて堂々と「改良版」を世界に問うてほしいです。

峰氏と同氏を擁護する方々が本件を放置するようであれば、残念ながら蛸壺のような内向きのコミュニティでしか通用せず、世界標準の進化からかけ離れた独自のスイスチーズモデルと、それを反映した日本の感染対策のガラパゴス化が進んでいくことになるでしょう。


Twitterでも情報発信しています。


注1:私は知りませんでしたが、峰氏が2021年2月に紹介したMackay氏のモデルの翻訳版において"Testing"が「検査」ではなく「診断」となっていることを取り上げて、同年4月頃に、「片っ端から『診察』と改変している。(中略)図に至っては変造どころか他人の絵を使って嘘をついている」との非難をしている方がいました(引用は控えます)。


今回の騒動を受けて同様の指摘が見られますが、これは誤りです。なぜなら、峰氏が2021年2月に紹介した図は、作者公認の各国語版の一つだからです。この誤訳は、今回有志によって修正されています。


原典はJames Reason氏となっています。ただPueyo氏の図は4スライスと、同氏が引用した当時のMackay氏の図(8スライス)よりだいぶシンプルですし、個々の対策の内容も異なります。そのため、Reason氏を原典とするほうが適切と判断したのはないかと考えられます(同時に、Pueyo氏は、Mackay氏をはじめとする先達のスイスチーズモデルに敬意を払い、リンクという形で紹介しています)。

関連して、以下の記事を執筆された忽那賢志氏が、Mackay氏のインフォグラフィックを無断改変または改ざんした(社会的責任の部分を意図的に削除した、など)と指摘している方もいますが、これは筋違いです。


なぜなら、忽那氏の記事の図を監修した林淑朗医師によって、当初含まれていなかった原典(Reasonモデル)が追加されているからです(林氏は、Mackay氏の図は参照していないと回答の上、もとになった別の図を示されています)。

林氏は、無用な誤解を招かないよう、迅速に、誠実な対応をとられたといえます。こうした経緯を踏まえない指摘は違和感があります(個人的には高名な忽那医師によるスイスチーズモデルに関する論考や、Mackay氏の図の翻案をみてみたい気もしますが…)。



また、アイデアとしては、Cleveland Clinicのように、Mackay氏より前のタイミングで新型コロナ文脈でのスイスチーズモデルを紹介している国内外の事例があります。


余談ですが、勝間和代氏による同書のタイムリーな解説がありましたので、少し長くなりますが抜粋します。

私が最も衝撃的だったのは、過去の感染症における数理モデルを作ったり、過去のデータを調べてコンピューターシミュレーションにかけると、たったひとつの決め手となる感染症対策はありませんが、その中でも最も盲点になりつつも最も必要な対策として
「小学校閉鎖の必要性」
を強く示唆していたという話です。

これはなぜかと言うと、感染経路として小学校内での児童同士の子供の接触の影響が非常に大きく、そこから家庭内感染が始まるからです。元々小学校がスペース的にも非常に密に作られていることに加えて、子供同士はいつでも接触し続けていて、ソーシャルディスタンスの概念がないためです。

(中略)

感染症対策についてスイスチーズの穴のような表現をしていまして、どの対策も決め手に欠けていて抜け漏れがあるのだけれども、穴の空いてるスイスチーズを何枚も重ねるといつかは穴がなくなるように、様々な感染症対策を考えなければいけないというのがこの本の大きなメッセージのひとつです。

すなわちワクチンと感染者の隔離だけでは実は不十分であり、また緊急事態宣言や飲食店の早期閉店などを行っても感性症が防げていないということは、まだどこかに何かの穴が開いてる可能性が高いのです。

私も、以下の投稿で、子どもは「かかっても風邪」「感染を広げる中心ではない」という、国内の専門家による通説を検証しています。


…話を戻すと、研究者として、先行研究者への参照をつける、クリエイティブ・コモンズの条件は尊重するといったマナーの議論とは別に、その道の専門家が新型コロナ対策をスイスチーズモデルに当てはめると、多かれ少なかれ、似通った発想になるということは踏まえておく必要があります。

専門家の実務では他のモデルを活用しているとのこと

注3:指摘がありましたので、補足します。誤解のないように正確に表現すると「国際的にはMackay氏のインフォグラフィックが『新型コロナ文脈でのスイスチーズモデルを表す図』としては事実上の標準」という意味になります。(2021年8月14日追記)

注4:Mackay氏がTwitterで公開しているのは冒頭で紹介したバージョン3ですが、作成途中と思われるものを含めるとバージョン4まで閲覧可能となっています。

バージョン3では「社会の責任」となっていた部分が「社会と個人の責任」になっていたり、「国境管理」や「ロックダウン」が追加されたり、こだわりがあるのか「誤情報ネズミ」が増殖していたりします。

注5:リスク管理の分野で昔からスイスチーズモデルに触れてきた方から見ると、社会や背景要因がこのような形で入っていることには違和感を覚える部分もあるようです。

その意味では、まさに「社会の責任」の部分を追加したところに、Mackay氏のインフォグラフィックのオリジナリティがあるといえそうです。

峰氏の図は、このアイデアをほぼ丸ごと活かしつつ、わずかな改変を加えているため、私の第一印象は車輪の再発明では?というものでした。

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